研究発表を行った学会;第28回日本分子生物学会年会
2005年12月 7日〜12月10日(福岡)
タイトル;プラコグロビンの転写調節能の再検討:
βカテニン/プラコグロビン欠損細胞を用いた解析
発表者;清水 正幸 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 初期発生分野)
Abstract;
βカテニンはショウジョウバエのセグメントポラリティー遺伝子であるアルマジロの相同分子であり、Wntシグナル伝達において中心的な役割を果たしている。この分子はカドヘリン・カテニン細胞間接着複合体の主要因子としても知られている。プラコグロビンはβカテニンと高い相同性を持つ分子で、細胞間接着においてはβカテニンの機能を相補しうる。Wntシグナル伝達においてもプラコグロビンはβカテニンと同じタンパク質分解系で分解され、転写においても同じ転写調節ユニットを利用しうることが示されている。しかし転写調節因子として実際に機能しているかどうかについては不明な点が多い。 昨年度、我々は、βカテニン欠損F9細胞、プラコグロン欠損F9細胞、βカテニン・プラコグロビン二重欠損F9細胞(BPD細胞)を用いてWntシグナル伝達におけるプラコグロビンの機能解析を行い、プラコグロビンはβカテニンに比較すると非常に弱い転写活性しか持たないことを報告した。今回、これらの細胞にβカテニン、プラコグロビン、およびこれら分子の欠失変異分子やキメラ変異分子を発現させ、Wntシグナル伝達におけるプラコグロビンのより詳細な機能解析を行った。まずプラコグロビンの過剰発現がβカテニンのタンパク質分解や転写活性に及ぼす影響を観察した。その結果、プラコグロビンの過剰発現は野生型βカテニンを安定化させ、プラコグロビンがタンパク質分解においてβカテニンと競合的に作用し、βカテニンの分解を阻害する事が示された。しかし、プラコグロビンの過剰発現はβカテニンによる転写活性にはほとんど影響を与えず、転写調節においては競合的に作用しないことが示された。次にβカテニンC末とプラコグロビンC末の転写活性化領域をそれぞれプラコグロビンC末とβカテニンC末に置き換えたキメラ分子をBPD細胞に強制発現させ転写活性を測定した。その結果、いずれの分子もプラコグロビンよりも強い転写活性を示した。しかしながら、これらのキメラ分子を恒常的に発現させたBPD細胞にWnt3aを作用させてもLEF-1/TCFを介した転写活性はほとんど見られなかった。これらの結果からプラコグロビンは潜在的なDNA結合能、転写活性化能は保持しているが、生理的条件下ではほとんどWntシグナル伝達に関与できないことが示された。
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