アクティブボード・2006年2月

     ・・・・・2006年 2月 1日更新・・・・・

研究発表を行った学会;第28回日本分子生物学会年会
2005年12月 7日〜12月10日(福岡)
タイトル;内在性チロシンリン酸化酵素によるβカテニンのリン酸化
発表者;冨永 純司 氏
   (熊本大学 発生医学研究センター 初期発生分野)
Abstract;
 βカテニンのチロシンのリン酸化は,カドヘリン依存性細胞接着活性やカドヘリン・カテニン複合体形成に対して影響を与えることが報告されている。しかし、それらのほとんどが外的にリン酸化酵素を加えた実験であり,内在性のリン酸化酵素によるβカテニンの修飾についてはほとんど知られていない。そこで今回,マウス奇形癌腫細胞であるF9細胞,及びF9細胞からαカテニンの遺伝子を破壊したαD細胞,βカテニンとそのホモログであるプラコグロビンの両遺伝子を破壊したBPD細胞,BPD細胞からαカテニンの遺伝子を破壊したBPD-αD細胞を用いて実験を行なった。まずF9細胞を脱リン酸化酵素の阻害剤であるバナデイトで処理し,内在性のリン酸化酵素によるβカテニンのリン酸化を検討した。その結果,F9細胞のβカテニンは弱くリン酸化されていた。またBPD細胞にβカテニンを発現させた細胞においてもβカテニンの弱いリン酸化が確認された。一方、BPD細胞にαカテニンが結合できない変異型βカテニンを発現させ,そのβカテニンのリン酸化を検討したところ、強いリン酸化が確認された。αD細胞やBPD-αD細胞にβカテニンを発現させた細胞においても同様の結果が得られ、αカテニンの結合がβカテニンのリン酸化を調節している可能性が考えられた。また、抗E-カドヘリン抗体を用いた免疫沈降において、リン酸化βカテニンが効率よく回収されたことから、このリン酸化はカドヘリンとの結合には影響を与えないことが示された。さらに、細胞膜と細胞質の分画においてβカテニンのリン酸化を検討したところ、細胞膜の分画で多くのリン酸化βカテニンが確認され、このことからE-カドヘリンと結合しているβカテニンがリン酸化されている可能性が考えられた。さらに、リン酸化されているチロシンを同定するために、BPD-αD細胞にβカテニンの欠失変異体を導入した。その結果、N末端領域を欠損したβカテニンにおいてリン酸化が見られなくなった。このことはリン酸化されるチロシン残基がαカテニン結合部位を含んだN末領域に存在する、もしくは、その部位とリン酸化酵素が相互作用している可能性を示唆している。以上のことを踏まえて、今後正確なリン酸化チロシンを同定し、βカテニンのチロシンのリン酸化が,カドヘリン・カテニン複合体に与える影響について解析していこうと考えている。


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