研究発表を行った学会;第28回日本分子生物学会年会
2005年12月 7日〜12月10日(福岡)
タイトル;神経幹細胞の未分化維持に関与する遺伝子の探索とその機構の解明
発表者;柏木 太一 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 転写制御分野)
Abstract;
中枢神経系を構成するニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトは神経幹細胞を共通の前駆細胞として誕生する。神経幹細胞は哺乳類の成体脳においても存在が確認されていることから、長期間にわたり未分化性を維持する機構が存在することが推測される。神経幹細胞の未分化維持機構の解明は複雑な組織である脳の形成の理解を深め、治療が困難である神経疾患への治療応用が期待されるなど生物学的及び再生医学的な観点から非常に重要であると考えられる。しかし、神経幹細胞の未分化維持機構の詳細なメカニズムは未だ不明な点が多い。そこで本研究は神経幹細胞の未分化維持機構解明を目的として、その機構に関与する因子の特定を試みた。
神経幹細胞はin vitro培養系においてbFGF存在下で多分化能をある程度維持させることが可能である。bFGFによって入力されるシグナルは多岐にわたっていることが示唆されているので、bFGFシグナル伝達経路のうち何が未分化性維持の本質なのかが明らかにできない状況である。そこで、cDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現解析を網羅的に行った。E14.5マウス胎児より神経幹細胞を含む神経上皮細胞を単離し、bFGF存在下、非存在下で培養した神経幹細胞をマイクロアレイ解析に供与した。未分化性に関与している遺伝子はbFGFの除去によりその発現量を減少すると推測される。マイクロアレイ解析の結果、bFGF存在下に比べて非存在下で2分の1以下に発現量が低下したものとして、bFGF除去後12時間で222種、48時間では478種の遺伝子が得られた。この中でbFGF除去後12時間、48時間でともに2分の1以下に発現量が低下した遺伝子は160種認められた。この中からbFGF存在下における定常的な発現量が高い遺伝子27種を選定した。それらについてin situ hybridization法を用いてE14.5マウス胎児脳におけるmRNAの発現を調べたところ、11種の遺伝子は神経幹細胞が存在する脳室周囲に限局して発現が認められた。これらの遺伝子の中には全く機能未知のものが2種含まれていた。また、残りの9種についても神経系の発生における報告がないものばかりであり、新たな発見が期待できる。
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