研究発表を行った学会;第35回日本免疫学会学術集会
2005年12月13日〜12月15日(横浜)
タイトル;胚性幹細胞由来の樹状細胞を用いた細胞ワクチン療法の開発
発表者;千住 覚 氏
(熊本大学 大学院医学薬学研究部 免疫識別学分野)
Abstract;
樹状細胞は、生体内においてT細胞の機能を制御している主要な抗原提示細胞である。微生物抗原あるいはがん抗原を認識する細胞障害性T細胞を活性化し、難治性感染症あるいは悪性腫瘍の予防あるいは治療を行なうためには、遺伝子導入により抗原を発現させた樹状細胞を細胞ワクチンとして投与する方法が最も効果的であると考えられる。現在、患者血液中の単球からの分化誘導により作成した樹状細胞を用いたがんに対するワクチン療法が、試験的に行なわれている。しかしながら、治療に必要な数の樹状細胞の調整するために、各々の患者から大量の単球を分離する必要が有り、コストや患者への負担が大きく、医療技術としてのさらなる普及は困難であると予想される。また、単球由来樹状細胞へ十分な効率で遺伝子導入を行なうためには、アデノウイルスベクターなどのウイルスベクターの使用を必要とし、これには安全性および法的な規制等の種々の問題を伴う。
我々は、このような問題を解決して、実用性の高い樹状細胞ワクチン療法を開発するために、胚性幹(ES)細胞から樹状細胞(ES-DC)を作成する技術の開発を行なっている。ES細胞から樹状細胞を作成することにより、ドナーに負荷をかけることなく樹状細胞を大量に調整することが可能になり、また、電気穿孔法によってウイルスベクターを介在させることなく遺伝子導入を行なえるからである。
これまでに、生理的に存在する樹状細胞と同等の機能を有するES-DCをマウスおよびカニクイザルのES細胞から作製する方法を開発している。また、遺伝子導入により抗原タンパク質を発現させたマウスES-DCをES細胞と同系あるいはMHCを部分的に共有する異系のマウス個体へ投与することにより、抗原特異的なT細胞を強力に活性化できることを確認している。さらに、ES-DC に抗原とケモカインを共発現させることで、当該抗原に特異的なT細胞応答を増強できることを報告している。今回の研究では、モデル腫瘍抗原であるOVA(オブアルブミン)を発現するES-DCにNKT細胞のリガンドであるα-GalCerを負荷したものを生体に投与することにより、NKT細胞を活性化し、獲得免疫に加えて自然免疫をも活性化させることにより、相乗効果によってOVAを発現する腫瘍細胞に対する免疫応答を増強できることを見出した。また、悪性黒色腫および肝細胞癌に発現するがん抗原であるGlypican3を発現させたマウスES-DCにより、マウスの悪性黒色腫モデルを予防および治療できることを実証した。
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