研究発表を行った学会;第28回日本分子生物学会
2005年12月 7日〜12月10日(福岡)
タイトル;マウス細胞核の分化段階特異的な核内制御機構
発表者;青戸 隆博 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 器官制御分野講座)
Abstract;
近年、多能性を有する幹細胞においては個々の遺伝子制御だけでなく、グローバルな核構造そのものにも注目が集まっている。これらを司るエピジェネティックな機構においては、DNAメチル化やヒストン修飾だけでなく、遺伝子の核内局在の制御などとの関係性が重要な役割を果たしている。また幹細胞の分化に伴う遺伝子の不活性化機構にはヘテロクロマチン領域からのcisあるいはtransの影響により多数の遺伝子が不活性化される場合と、ユークロマチン領域にある個々の遺伝子が単独で標的となる場合が知られている。とくに後者の場合のクロマチンの実際の動態については現在まで全くわかっていない。
今回、我々はグローバルな核構造の変化およびES細胞特異的に発現するOct3/4遺伝子座および近傍のMHC染色体サブドメインを含めて、神経分化段階に特異的なエピジェネティックの制御機構について解析した。これらの機構を解析するためにES細胞の分化系を利用しOct3/4陽性の未分化ES細胞、Oct3/4陰性の神経前駆細胞および終末分化ニューロンの各分化段階を調べたところ、細胞核はその分化過程においてヘテロクロマチン構造の配置転換やその構成因子、ヒストンコード、さらには非クロマチン性の核構造までも変化させることを報告する。さらに約50kbpに及ぶMHC-Oct3/4遺伝子領域を核内構造との相互作用およびクロマチン修飾(H3のアセチル化、リン酸化, メチル化とDNAメチル化)について解析したところ、Oct3/4遺伝子座は細胞の分化段階特異的な不活性化機構(Phased Silencing)を受け、近傍のMHC遺伝子座やハウスキーピング遺伝子とは独立した制御を受けることを見出した。さらにこれらの機構はいわゆる構成的ヘテロクロマチンを介さない機構であることが判明した。興味深いことにOct3/4遺伝子座は、非クロマチン性の細胞核内構造体とも相対的な位置関係を変化させながら抑制されることも報告する。
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