アクティブボード・2006年 7月

     ・・・・・2006年 7月 5日更新・・・・・

研究発表を行った学会; 日本発生生物学会 第39回大会
    2006年 5月31日〜 6月 3日(広島)
タイトル; Tsukushi regulates differentiation of retinal progenitor cells interacting with Wnt2b.
発表者;伊藤 綾子 氏
   (熊本大学 大学院医学薬学研究部 神経分化学分野)
Abstract;
 成体ほ乳類の中枢神経は再生しないと考えられてきたが、1990年代に入って神経再生の源となる神経幹細胞の未分化状態での培養が成功した。成体網膜においても、神経網膜幹細胞の存在が確認されたことにより網膜再生治療の可能性が開かれたものの、その細胞系譜プログラムを理解するには至っていない。今回の発表では本研究室で発見されたTsukushi(TSK)が、神経網膜前駆細胞の未分化性維持に関与する事を見出したので報告する。
 TSKはニワトリ初期胚において原始線条、ヘンゼン結節に発現している分泌型BMPアンタゴニストであり、私達はTSKがヘンゼン結節の形成に関わる重要なコンポーネントの一つである事を報告した(Ohta et al. 2004)。TSKは動物種を越えて未分化で多能な網膜前駆細胞が存在する網膜辺縁部に発現している。TSKと同様に、網膜辺縁部に発現するWnt2bは網膜前駆細胞の細胞分化を制御し、未分化な状態を維持して増殖させる働きがあるという結果が報告されている(Kubo et al. 2005)。また、私達はアフリカツメガエル胚を用いた実験から、TSKがWntの機能を阻害する結果を得ていたことから、網膜前駆細胞においてもWnt2bとTSKが相互作用するのでは、と推測し実験を行った。
 エレクトロポレーション法を用いてニワトリ胚眼胞に直接Wnt2b, TSK, またはWnt2b+TSKを網膜全体に過剰発現させた。その結果、Wnt2b単独で過剰発現させた場合は、組織片は未分化の状態を維持したまま増殖した。一方、Wnt2b+TSKではWnt2b単独と比べると組織片の増殖が抑えられた。これらの網膜組織片を酵素処理して単離し、細胞数を測定した結果においてもTSKがWnt2bの増殖を抑制している結果が得られた。
 今後の課題として、TsukushiがWnt2bと直接結合するのか、またはWnt2bのレセプターFrizzledと結合するかを調べていきたい。


  アクティブボード
  遺伝子実験施設ホームページ
熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
E-mail: www@gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp