内分泌撹乱物質に暴露された妊娠ラットの次世代で
みられた精子形成の遅延および精子数の減少
李 栄純

ソウル大学校 獣医科大学 公衆衛生学教室 教授
熊本大学 生命資源研究・支援センター 客員教授

 現在、内分泌撹乱物質は乳房癌、子宮内膜症、不妊、学習障害、睾丸癌、免疫系障害、甲状腺異常など、人間の多様な疾病と関係があると報告されている。その中でも精子数の減少はDenmarkのスカベック報告書が有名であるが、日本の帝京大学の研究チームもほぼ同様の成績を報告している。本研究は韓国人、日本人がしばしば摂取するisoflavoneであるgenistein、代表的な環境汚染物質であるdioxin、食品、医薬品、化粧品の保存剤として広く使われているparabenに対してその次世代への影響を調べた成績である。

(1)Genistein
 生殖能に対する成績は着床数、生存胎仔数、出生仔の離乳時までの生存率、性比率のいずれについても全く異常がみられなかった。また、副睾丸未端での精子数および活性度、卵巣の卵胞の発達にも影響はみられなかった。しかし、経時的に観察した各群ラットの胎児の生殖臓器の重量には多少の変化が観察された。

(2)Dioxin
 妊娠15日目から出産後21日目までdioxinに暴露された出産後90日目のマウスの睾丸および副睾丸に及ぼす影響を調べた結果、睾丸の臓器重量に比例した精子の生成量には変化がみられなかったが、副睾丸での精子の生成量はdioxinの投与量に比例して減少した。病理組織でも精子細胞の分化の阻害が観察された。dioxinを妊娠母体に妊娠15日目から出産後21日目まで投与した結果、次世代にまで影響を及ぼすことが観察された。次世代の雄ラットで遅い段階での精子形成と精子の成熟が阻害された。このdioxinの抗アンドロゼン性は、精子数の減少とTRPM-2(精子の成熟に関与している物質)の増加による精子形成の阻害と関連があると思われる。

(3)Parabens
 butyl parabenの投与によってanogenital distanceには影響がみられなかったが、膣開口時期には100mg投与群において早期化する傾向が観察された。睾丸の重量は21日目に100mg投与群で有意な増加がみられたが49日目では有意な減少が観察された。また成熟後では200mg投与群において有意な増加が観察された。前立腺の重量においては49日目と90日目の100mg投与群において有意な減少がみられた。雌の子宮および卵巣の重量には変化がみられなかった。以上から、butyl parabenの投与によっては雌よりも雄の生殖臓器が影響を受けることが明らかとなった。


熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
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