マウスバンキングについての最近の動向
中潟 直己

熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野 教授

 近年、遺伝子の機能解析およびそれに関連した研究開発が、国家プロジェクトとして世界中で盛んに行われている。その中で重要な役割を果たしているのが遺伝子改変マウスであり、今後、その数は、加速的な勢いで増えることが予想され、最近、これらマウスの維持管理が、世界中の実験動物施設においてきわめて深刻な問題になっている。今後のライフサイエンスの進展にとって、バイオリソースとしての遺伝子改変マウスは、まさに知的基盤の根幹を成すものと言っても過言でなく、その作製、収集、保存、供給の管理システムが、ますます重要視されていることから、2004年11月に米国のジャクソン研究所で、世界の主要なマウスリソースセンターが一同に介し、マウスリソースを国際的に供給する体制を築くための第一回目のRoundtable meetingが開催され、様々な意見交換が成された。現在、マウスの系統維持は個体の飼育より胚の凍結が主流になっており、病原微生物汚染の観点からマウスの授受も凍結胚で行われる傾向が年々高くなりつつある。また、胚の凍結保存も、交配した雌から8細胞期胚を採取して緩慢法で凍結保存する従来のスタイルから、体外受精により2細胞期胚を作出し、短時間で操作が完了する簡易ガラス化法で凍結保存するパターンが増えつつあり、我が国においてはかなり普及している。一方、最近では、精子の凍結法も確立されつつあり、凍結精子を用いた様々な受精法、すなわち、一般的な体外受精法の他に、透明帯穿孔卵子を用いる、あるいは1匹の精子を直接卵子内へ注入する顕微受精などの技術も開発されている。さらに凍結乾燥した精子を用いた顕微授精技術も実用化されつつある。本シンポジウムでは、世界のマウスバンキングシステム、マウス胚・精子の凍結保存およびこれら凍結細胞を用いた供給体制について述べる。


熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
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