情報センターから見た遺伝資源をめぐる最近の動向
山崎 由紀子

国立遺伝学研究所 生物遺伝資源情報総合センター 助教授
熊本大学 生命資源研究・支援センター 客員教授

1、はじめに
 かつて系統は遺伝学の中心的研究材料であったため、国立遺伝学研究所は、長い間国内の遺伝資源の情報整備に関わってきました。遺伝資源保存の歴史は困難な時代を何度も乗り越えて今日に至っていますが、情報の整備にはさらに長い時間がかかりました。2002年にナショナルバイオリソースプロジェクトが立ち上がり、ここでは「情報」もプロジェクトを構成する1つの柱として扱っています。本シンポジウムでは、情報整備を進めている立場から、遺伝資源を巡る最近の動きについて紹介したいと思います。これまでの歴史の中で今ほど遺伝資源がクローズアップされている時代はなかったかもしれません。
2、ナショナルバイオリソースプロジェクト
 ナショナルバイオリソースプロジェクトは、国が重要と認めたいくつかの生物種についてその遺伝資源の体系的収集、保存、提供体制の整備を目的とした国家プロジェクトです。 現在24のリソース中核機関と1つの情報中核機関がプロジェクトを推進しており、当センターは情報中核機関として全リソースの情報整備を担当しています。プロジェクト3年目に入り、ようやく全生物種において情報公開体制が整ったところです。プロジェクトの特徴や活動状況についていくつかの具体例を挙げてご紹介したいと思います、本プロジェクトの情報はhttp://www.nbrp.jp/からも閲覧可能です。
3、CARD R-BASEについて
 CARD R-BASEはトランスジェニックマウスを中心としたCARDマウス遺伝資源のデータベースであり、私はその構築と運用に携わっています。 2001年に公開を開始し、2004年7月にはInternational Mouse Strain Resource (IMSR)という国際マウスリソースDBのメンバー機関としても参加するようになりました。この国際連携を実現するために、系統名や遺伝子名の記述を国際命名規約にあわせる必要がありました。加藤秀樹先生(浜松医科大学)のご指導を得て系統名の命名を支援するツールGODFATHERを作成するに至り、インターネット上で公開しています。
4、国際動向
 遺伝資源がここ数年脚光を浴びるようになった理由の1つに国際情勢の変化があります。
 これまで法的な制約が極めて少なかった研究用の遺伝資源に関しても、様々な規制や基準が作られるようになってきました。しかし囲い込みというマイナス面だけではなく、限りある遺伝資源を地球規模で保存し有効利用しようというプラス面の動きもあります。


熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
E-mail: www@gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp