「幹細胞システムを用いた中枢神経系の再生医学」
慶應義塾大学 医学部
教授 岡野 栄之
ヒトを含む哺乳類の中枢神経系は、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトといった多様な細胞集団から構成されている。発生過程において、多分化能と自己再生能力を有する中枢神経系の組織幹細胞である神経幹細胞から、非対称性分裂や分泌性因子を含む巧妙な細胞間相互作用の結果として、これらの多様な細胞系列に続する細胞群が生じてくる。しかしながら、20世紀初頭にRamon y Cajalが、"once the development was ended, the fonts of growth and regeneration...dried up irrevocably"と述べたように、損傷した成体哺乳類の中枢神経系は再生しないものと長い間考えられていた。これは、ニューロンに分裂能(細胞としての再生能)がないことと、成体中枢神経系内においては軸索再生さえできなかったことに起因する。しかしながら、成体の中枢神経系においても、神経幹細胞が存在することが示され、神経軸索伸長阻害因子の分子的実体が明らかになってきたことから、この常識は破られつつある。現在では、損傷を受けた中枢神経系の再生のstrategyとしては、神経栄養因子およびその関連遺伝子導入によるneuroprotection、神経軸索伸長阻害因子の機能抑制による軸索再生、内在性神経幹細胞の活性化、神経幹細胞あるいは胚性幹細胞由来の細胞移植、骨髄間質細胞の非神経系細胞への分化転換の利用等多岐に渡っている。神経再生を効率よく誘導し、医療として確立するためには、これらの技術を統合的に 組み合わせてbrush upしていく必要がある。
これらの点を踏まえて、本講演では脊髄損傷やパーキンソン病の再生医学を目指した我々の最近の研究成果について話したい。
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