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万能細胞ってどういうもの?

〜ES細胞と幹細胞〜
 生物は細胞からなっていることを知っていますか? ヒトも200種類以上の異なる機能をもつ細胞からできています。それらが組織(骨、筋肉など)や器官(胃、肝など)を構成しているのです。



ES細胞とは?


 Embryonic Stem Cellの略で、胚性幹細胞のこと。哺乳類では受精卵が分裂していったとき、4〜5日目には栄養芽細胞層内部細胞塊からなる胚盤胞になる。この時、内部細胞塊から個体ができるのであるが、この細胞が未分化な状態のときに取りだし、培養した細胞のことをES細胞といい、分化全能性をもつ。

図1  ES細胞の分化





 マウスでは以前から作られていたが、ヒトES細胞は1998年に米国ウイスコンシン大学の研究チームThomsonらによって樹立した。ヒトES細胞単独では、人間一個体には育たないが、あらゆる細胞に変化する性質を持ち(分化全能性)試験管内でほぼ無限に増殖できる。

→幹細胞って?
 生体内にあって多能性をもち、様々な細胞に分化し得るような未分化な状態の細胞のこと。5種類ほど幹細胞があるが、いくつか例にあげてみよう。

A:造血幹細胞 :造血組織(骨髄)に存在し、リンパ球や白血球、血小板へと分化、成熟する。その他、骨格筋、肝細胞、神経細胞などにも分化できることが示唆されている。

B間葉系幹細胞 :骨髄などに存在し、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などへ分化する。加えて、神経細胞、心筋細胞などの系統への分化メカニズムが検討されている。

C神経幹細胞 :神経系の3種類の細胞(神経細胞、グリア細胞、奇突起膠細胞)へと分化する能力をもつ。血球系細胞や血管、骨格筋細胞に分化することも報告されている。


ES細胞のいいところ!!


@どの臓器にも分化できる能力(分化全能性)

A生体外(細胞培養装置内)でも、大量に培養できる。

Bすでに確率されている培養技術や分化誘導などを利用できる。


 これらの利点を利用した研究というのがノックアウトマウス作製である。
 ノックアウトマウスというのは 特定の遺伝子を失ったマウスを作ることで、その遺伝子の働きを解明できる。原理は、目的遺伝子と薬剤耐性遺伝子を組み込んで作ったベクター(遺伝子の運び手)を電気穿刺法により、マウスES細胞に導入すると、ES細胞の標的遺伝子と相同組換えを起こす。相同組換えではなく染色体の任意の位置に組み込まれたES細胞やベクターを取り込まなかったES細胞は存在できず、ベクターを取り込んで相同組換えをしたES細胞だけが効率よく、選択培養できる。このようにして、増殖した相同組換えES細胞をマウスの胚盤胞に注入し、仮親の子宮内に移植する。ES細胞と胚盤胞の細胞とが組み合わさって一匹のマウス(キメラマウス)になり、このキメラマウスと正常マウスの交配の結果、片方の染色体の遺伝子が改変されたマウス(ノックアウトマウス)が誕生する。


用語説明


耐性遺伝子...その薬剤に対して抵抗力を持ち、生存力を表す遺伝子。
ベクター...プラスミドという害のない環状DNAに目的に応じた遺伝子を組み込んで作った、導入遺伝子の運び手のこと。

 ヒトES細胞の生体外分化について、様々な研究が行われている。ES細胞が多分化能といっても、それぞれの細胞、組織への分化誘導にはことなった誘導因子が必要だったりするからである。研究が進み、様々なことが解明した今でも、組織や臓器をした形での移植は無理であろう。しかし、細胞レベルでの移植は可能で、実際臨床でも用いられている。


→細胞移植の現状

☆血液細胞移植...骨髄破壊的な治療(放射線治療など)を行った後に、造血幹細胞を輸注し、血球の回復をはかる治療法。

☆心筋細胞移植...心筋梗塞などによって心筋細胞が死んでしまった場所に注射して細胞再生をはかる治療法。

☆グリア細胞移植...アルツハイマー病などにたいする治療法。

 今後はどの程度の種類の細胞が製作可能なのか、このような細胞治療は倫理的にOKなのか的になってくる。


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