優秀作品(1)

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健

Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2004年 4月17日更新


『イエスの遺伝子』(教育学部)

 1.無神(信)論者から見たキリスト教社会の抱える思想上の問題
 この本の骨組みとなっているのは、数千年の積み重ねられた信仰心と、ここ数年で格段と進化した科学との考えの対立だと思う。キリスト教の信仰は神という絶対的な存在へ、許しを請うという形のようである。生命の成り立ちや神の子キリストの神性は『人』の踏み込むべき領域ではないと考えられている。こういった考え方が定着している社会ではある程度を越えた力を持つことに漠然とした不安がある様である。進んでいく科学の先に神性がある、と認識する人が多いならばもしかすると世間一般での遺伝子研究は止まってしまうかもしれない。どんなにその研究で生まれる産物が人々の苦しみをなくす方法になるとしてもだ。しかし、キリスト教徒ではない、もしくは神という存在を信じない人々がそういった問題を考えるとするとどうだろうか。《ちなみに私的な事だが私は『神』なんてものは信じていない。自然の摂理は重視しているけれど。本文でトムも言っていた様に神がいるというならばなぜ善で、どう見ても生きるべきである人が殺され、死ななければならないのか。苦しまねばならないのか。それを運命なんてものでひとくくりにするというのなら信仰なんて持ちたくもない。》私がその中(無信仰な研究者)に含まれているならば、思想上の問題はないので、迷うことなく遺伝子研究を進めていくだろう。もちろん人口増加などの問題は対処せねばならないが。なぜ苦しむ人を助けることが罪になるというのか。だれでも苦しんでいる人が目の前にいたならば出来る限りの事をしてやるだろう。それを無情に止める神などいないだろう。私はいるかいないかも分からない神への忠誠よりもそれに逆らってでも人々と助ける技術をみがくほうが正しいと思った。私は思想の制限がこれから先の研究への支障をきたすことの無い様にいのる。

2.手にした力は……
 トムは人を救う力を手に入れ、それが悪用・乱用から防ぐために12人の信頼できる人々をあつめた。(この辺も使徒とからんでいてキリスト教をにおわせているのだが…)ブラザーフッドからの最後の警告にトムが耳をかすのは、説得力のある内容だったのでとても良く理解できた。…しかしなぜそこで軽々と人を選抜してしまえたのだろう。とても違和感を覚えた。一体どこに彼らがその力を悪用しないと断言するまでの理由があったというのか、悪用するなといわれても、ころっと彼らの考えが変わってしまったとしたら、その用途を防ぐことは出来ないだろう。一度体内に入れたならば力は消えないのだから。金・欲望・恐怖・脅迫などなど様々な要因がありうる。また、乱用は防げるのか?ほとんどが人を病気から救いたいという人達なのだろう(だから選ばれたという点もある)そんな人がこの人は○この人は×なんて感じで人の死を決めれるものだろうか。私だったらすべての人を救いたい。その後どんな結果が待っているとしても、助ける力があるというのに助けないなんて事があったら、それはマリアと変わらないじゃないか。上位に立って人を選ぶなんてまるで忌しい選民意識の様だ。手にした力があまりに強大だったのだ。トムはあんなに簡単に決断すべきではなかったと思う。

3.全体的に書物として。
 テンポが良く、とても読みやすいものだった。しかし、ツメが甘いというか…。完読後に満足を得られない終わり方だった様に思う。思想の違いもあると思うけれど。色々と読者に考えさせる本だったけれど所々分からない所があった。
ex
・白い火って結局どうなの?
 マリアがキリスト2だ、という展開になっていったけれど、DNA上の特徴で選ばれたというのなら白い火は他の死去した人々(同DNA保持者)が生まれた時、マリアが生まれるより確実に白くなるハズ…。
・マリアの死体は?
 最後の最後までどちらの選択が正しいのかを迷わせる為の作者の意図だろうと思った。トムの選択が正しいとは限らないのだぞ、という警告のように思えた。


*****2003年度・優秀作品*****
冬休みの課題レポート・2003
教育活動
 MASA Home Page


  遺伝子実験施設ホームページ
熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
E-mail: www@gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp