優秀作品(7)

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健

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2004年 4月17日更新


『イエスの遺伝子』(法学部)

 この作品は2002年を舞台に、イエスの遺伝子をめぐる人々を描いた作品である。私は「人生は終わりがあるから楽しい」ということを改めて認識させられた。つい自分や、周囲の人間が健康を損なうと「病気など無くなればよいのに」とか、「いつまでも元気でありたい」と思ってしまう。これはいたって普通のことであろう。しかし、今回のこの作品を読んでそういったことを切望し、むやみに実行に移してしまうことがどれ程の重みを持ったことであるかに気付いたのだ。
 私達は普段の生活の中で自分達が自然の一員であるということを忘れがちである。「自然の秩序を変えて」「生命に対して敬意の払われることのない世界」というエゼキエルの言葉にはっと息を飲む思いだった。自分が元気でありたい、自分がいつまでも長生きして欲しいと思うことがそんなに大きな事態を招くとは思ってもみない。もしも人々が、その力を手に入れたなら、その瞬間から人生は輝きを失うのだ。終わりがあるからこそ人は人生というものに対して目標を持つのであり、ゴールのない戦いは成立しえないのだ。その点で一度死んでしまったホリーを遺伝子治療という技術と、権力を利用して蘇生させたトムは誤ちを犯していたと言えるだろう。しかし、その前にもトムは多くの人々の命を遺伝子治療によって救っている。イエスの遺伝子を利用したから誤ちとなるのか。両者の間には一体どれだけの違いがあるというのだろうか。いや、「死ぬ」という運命を変えてしまった事実はかえられないのだ。これは脳死についても同じことが言えるだろう。昔は、脳死という概念自体存在しなかった。これは技術の向上によって生まれたものである。どこまでが本当の「生」か「死」かの境界が薄れてきている。そして今後は「死」自体がなくなってしまう。私は神を信仰している訳ではないが、人はやはり"未知の領域"というものを失ってはいけないと思う。どこからが不可侵であるかという明確な答えを私は持っていないが、必ず存在するのだ。だから議論されているものであると思う。


*****2003年度・優秀作品*****
冬休みの課題レポート・2003
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