熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2004年12月17日作成
1)テキスト(遺伝子と夢のバイオ技術、28〜49ページ)及び補足資料を参考にして、下記質問に答えて下さい。
ア)からだの中で、水の次に多いのがタンパク質です。生命現象のほとんどはタンパク質の作用がもたらすものです。タンパク質は生命の形を作る構造タンパク質と、化学反応を手助けする酵素と呼ばれる機能タンパク質に分類されます。ここは理解できましたか?
イ)アミノ酸は、アミノ基(−NH2)とカルボキシル基(−COOH)を持っている両性電解質です。タンパク質はアミノ酸が少ないもので数十個、多いものでは数千個ペプチド結合でつながったものです。そこでタンパク質には、N末端とC末端があります。ここは理解できましたか?
ウ)タンパク質は、そのアミノ酸配列に従って、複雑な立体構造(1次構造〜4次構造)を形成します。タンパク質が正しく機能する(働く)ためには、正しい立体構造をとる必要があります。ここは理解できましたか?
2)テキスト38ページ図1−12を見ながら考えて下さい。T2ファージはタンパク質を成分とする殻の中に、DNA(T2ゲノム)が入っています。T2ファージの大腸菌への感染は、次の様に進みます。
T2ファージの足が大腸菌の細胞表面に存在するレセプターに接着する(吸着)→殻の中のDNAが大腸菌の中に注入される→大腸菌はT2ゲノムの情報に従って殻や足の蛋白を合成し、T2ゲノムを複製する→T2ファージ粒子が大量に産生される→大腸菌の細胞膜を破ってT2ファージが外に飛びだす(溶菌)。
さて、ファージやウイルスは、特定のレセプターを持つ細胞にしか感染できません。例えばB型肝炎ウイルスは、ヒトとチンパンジーしか感染しません。つまり、B型肝炎ウイルスという物体は、ヒトより後に出現したことになります。あなたはこの話をどう思いますか?
・B型肝炎ウィルスは人がいないと生きていけないから、B型肝炎ウィルスという物体は、人より後に出現したことになる。人やチンパンジーが生存する前は存在しなかったとすると、ウィルスはいったいどこからやってきたのだろう?(医学部)
・ということは、人とチンパンジーが特定のB型肝炎ウィルスしか接着できないものを持っている。(文学部)
・そもそもB型肝炎ウィルスはいつ頃発見されたのだろうか? 人とチンパンジーにしか感染しないから、ヒトよりも後に出現したというのは結論が速すぎないだろうか? もともと存在したB型ウィルスの祖先が、ヒトやチンパンジーの肝細胞のレセプターを特異的に認識できるようになったのなら同時に出現したことになるのではないか。(医学部)
・T2ファージのDNAは一重環状DNAであり、また増殖速度と死滅速度も非常に速い、また、DNAの構造から変異が起こりやすく、さらに塩基数も少ないことから、少ない変異で大きな形質変化が起こりやすい。以上のことから見て、ヒトの誕生以後に出現したとしてもおかしいことではないように思われる。
(医学部)
・ヒトとチンパンジーにしか感染しないということはつまりヒトとチンパンジーに対応して新たに出現してしまったのだろうかと思った。(工学部)
・人間もまた新たな病原菌にたいし、後天性免疫において、新しく特異的な抵抗性を獲得したりする。同じように、細菌やウィルスが新たに生じた種に対して特異的に発生しても、おかしくないような気がする。 細菌やウィルスは、その世代交代の時間がすごく短いので、遺伝性突然変異が生じやすい。とすると、環境に適応する能力は、人よりはるかに高いと言えるかもしれない。〜ウィルスがわざわざ人やチンパンジーという種をえらんで特化したのか、偶然そうなったウィルスが一気にまんえんしていったのかわからないが、こう書かれるとどうもヒトの方が不利であるような気がした。(医学部)
・ヒトはこの惑星において、一番の繁栄を誇っている。ということはだ、ファージやウィルスは整った環境が好ましいわけなので、ヒトは絶好のターゲットだということだ。そのようなミクロレベルのファージやウィルスはマクロレベルの牛や豚などの家畜と人との関係が似ている。牛や豚などはもとは野生であったが、ヒトに依存して家畜になったおかげで、今や世界中に数多くいる。それと同じようにB型肝炎ウィル スもシェアを広げたのだと思う。前者は相利共生、後者は片利共生という違いはあるにしてもだ。
(医学部)
・我々より後に出現した病気なんてもっとたくさんあるのでしょう。エイズなんかもごく最近の病気だと聞いたことがあるような気がします。あらゆる生命(病原菌も含む)は何とかして自らの生きる道を探すものです。人類は多様な方法で病気と闘っていますが、人間が努力すれば努力するほどその条件をさらに上回る強烈なウィルスを誕生させていくのでは。このイタチごっこの行きついたさきは…?考えるだけでも 恐ろしいです。(教育学部)
・特定のレセプターをコードしているのは「遺伝子」である。ウィルスはその遺伝子を狙って進化(?)しているのだろうか…と感じた。(理学部)
・確かにその様な考えの方が正しそうですが、B型肝炎ウィルスがヒトより前に出現したかもしれないという考えも否定できないと思います。例えばヒトとチンパンジーの祖先の一部がB型肝炎ウィルスに何らかの影響を受け、ヒトとチンパンジーに進化し、受けなかった者が別の異なる生物に進化していったから、ヒトとチンパンジーだけに感染する原因となる遺伝子を所有しているのではないかという考えもありでは ないかと思いました。(医学部)
・このウィルスは進化して、ヒトとチンパンジーのみに感染するB型肝炎ウィルスへとなったのだと思う。ヒトと同様にウィルスも常に進化しているものと考え、そのきっかけとは、突然変異もありえるだろうし、感染を機に遺伝子が変異したかもしれない。そして、これから先も新種のウィルスは次々と現れてくるはずだ。(理学部)
・チンパンジーはヒトより後に出現したということですか? チンパンジーはヒトより先に存在したという先入観があるのですが、そうではないのでしょうか? (医学部)
・正しいと思う。B型肝炎ウィルスというウィルス自体が増えるためにはその宿主になる生物が存在しないといけないからである。でも、B型肝炎ウィルスが無からいきなり生まれるとは思えないので、この元となったウィルス(これが突然変異してB型肝炎ウィルスになったと思う)はヒトやチンパンジー以前に存在していたと考えることも出来ると思う。また、ヒトが生まれたのはウィルスの作用による突然変異のおかげとも言われているのでB型肝炎ウィルスとヒトは同時に生まれた可能性もあるかもしれない。
(理学部)