優秀作品(2)

熊本大学・遺伝子実験施設・荒木正健
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2000年 5月 2日更新


(2)『五体不満足』(医学部、1年)

 私の兄は視力障害者である。兄が大学受験で弱気になって
いた時、生まれて初めて兄の障害に対する本音を聞いた。勉
強すればする程、視力は落ちていき、ますます物が見えにく
くなること。もし志望大学に受かったとしても、社会では障
害者は差別されるから就職も出来るかどうか分からないこと。
人間の体で目が、いかに重要な役目をしているかということ。
将来結婚出来たとしても、家族を養えるだけの経済力は持て
ないだろうということ。私は兄と二人で大泣きした。どうし
て私の兄が障害を持ってしまったのか。かえられるものなら、
私の目と交換してあげたいと思った。一方で母親は、兄を障
害を持つ子として産んだことに責任を感じていた。私は、障
害を憎まずにはいられなかった。
 しかし、兄は見事大学に合格。もちろん大学に入れたから
といって、彼の視力が上がる訳ではないから、彼が視力のこ
とで落ちこむことはあった。けれど、たくさんの人間にもま
れて、人間的に大きくなっていったのだと思う。東京から実
家に帰ってくるたびに、大人びていくような気がした。結局、
就職も、ソニーという大企業に入れたし、素敵な彼女もいて、
今、兄は自分が幸せすぎて怖いというくらいである。私は、
いつか彼の視力が、医療技術の進歩によって回復できたらい
いなと思いながらも、もしそれが無理だったとしても、兄の
人生は決して不幸だったとは言えない、と思う。もちろん不
便ではあるけれど。障害者がみんな兄のように成功するとは
言えない。障害の程度によって不可能なこともある。だけど
必死の努力によって、自分の人生はどうにでもなるというこ
とを、私は兄から教わった。弱気になって、こんなに見えな
いのなら死んだほうがましだと言った兄が、その時、本当に
自殺してたら、本当に兄は不幸だったと思う。彼の人生は、
それで、終わってた。出生前診断で障害者が生まれないこと
は、その時点で不幸だと思う。障害者がどのような人生を送
るかなんて誰にも予想できない。可能性をつぶされた障害者
は不幸だ。たしかに出産に関しては、子供を育てる親の負担
も考えると、問題はすぐに答えが出る訳ではない。障害の程
度によっては子育ては普通以上に大変になる。だけどこの本
の筆者と同じように、私も、障害を持つからといって産んで
はかわいそうなどという考えはまちがっていると思う。障害
を否定的、悲観的にではなく、もっと肯定的なもの、一人の
個性として認めあえる社会をつくらなければならないと思う。
 もうひとつ、この本を読んで教えられたことは、人間一人
一人が唯一の存在であるということである。私は、外見に
コンプレックスを昔から持っている。コンプレックスを持っ
ても、それを生きるエネルギーにうまくかえられる人はいい
と思う。だけど、私の場合はそれによってひどく落ちこんで、
立ち上がれなくなり、生きる意味さえわからなくなることも
あった。でも、自分は唯一の存在だから、自分にしか出来な
いことが必ずあるということを知って、私も勇気が出てきた。
人が生きて活動できる時間は決まっている。だから、その時
間をコンプレックスで悩んで費やすより、もっと楽しく、
もっと実りあることに費やしたほうがいい。昔から悲観主義
だったので、急に考え方をかえるのは難しいけれど、人生と
いうものをもっと高い視点からながめて、充実した人生を送
りたいと思う。


*****1999年度・優秀作品*****
冬休みの課題レポート・1999
教育活動
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