熊本大学・遺伝子実験施設・荒木正健
熊本市本荘2−2−1
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2000年 5月 2日更新
私は中高生のころから「今日の出来事」を見て一日を終え
るのが日課だったから、この本を手に取る前から、薬害エイ
ズについては、多少の関心があった。当時キャスターだった
櫻井よしこさんが、普段の穏やかな顔つきを一変させて、こ
の問題を訴えていた姿を今でも覚えている。なぜ、当時中高
生だった私が、薬害エイズ問題に関心を持つようになったの
か。それは、ある人が「今日の出来事」に出演しているのを
見たからである。その人とは、自分が薬害エイズ訴訟の原告、
つまりエイズ患者であるということを実名で公表した川田龍
平さんである。彼は私より何才か年上の大学生だったと思う。
テレビに出演している彼の様子は、普通の人と何ら変わりは
なかった。しかし、その目の奥には、何か悲しげで、しかし、
負けはしないという信念が宿っているようだった。エイズと
いう(当時は)不治の病を抱えながら、ひたむきに被害者の
苦しみを訴える彼の姿を見る度に、私はなぜか涙が出ていた。
櫻井さんがキャスターをやめてから、薬害エイズに関する
情報を得る機会が少なくなっていたが、今回あらためてこの
本を読むことができた。感想を一言で言えば、『怒り』につ
きる。郡司篤晃、阿部英という、聞き慣れた名前と、彼らの
行った悪事の数々。あの頃感じていた以上に怒りが込み上げ
てきた。そしてやはり、櫻井さんが感じていたのと同じ様に、
グルになっていた厚生省や、薬剤メーカーのことも、本当に
憎いと思った。何よりも彼らは、被害者の命を奪った。明る
い日の下で堂々と生活していく権利を奪った。国民の健康的
な生活を守るはずである厚生省と、一人一人の命を預かり、
患者が信頼せざるをえない医師、そして、科学の先端を走り、
よりよい治療のために開発を続けるはずの薬剤メーカー。彼
らが手を組むと、何と立派な悪事が成立するのか。櫻井さん
の取材などにより、明らかになった部分や、責任を取らざる
をえなくなった人々が多かったのではないか。この問題に取
り組んできた櫻井さんは、薬害エイズの被害者たちを、どん
なに勇気づけたかわからない。そしてまた、私がその一人で
ある様に、エイズが広まった実態を正しく理解し、エイズに
対する偏見を持つ人を少しでもなくすことに成功した。本の
中にあった、草伏さんや、少年Mのことを読めば読むほど、
三者のことが憎く思える。被害者のことを第一に考えた櫻井
さんだからこそ、真剣にこの問題に取り組み、人々に訴えか
けることができたのだろう。また、櫻井さんは薬害エイズ問
題を通して、日本人の物事に関する視点のあり方や、裁判や
行政という国家制度にまで言及していた。本当に心を込めて、
問題について調べ、考え、訴え抜いてきた結果だと思う。
本の中でエイズという病気自体が克服の道をたどっている
と書いてあった。これは実に喜ばしいことなのだが、果たし
て、日本の行政はついていけるのだろうか。非加熱製剤がア
メリカでは危険視されているにもかかわらず、使用を中止し
なかったときの様に、また後れを取るのではないか。たとえ
ば医療の様に、科学の世界と、政治の世界が融合するとき、
科学の発達が、国を豊かにし、科学の発達のために国が力を
注ぐという、おたがいの後押しと、理解が必要である。遺伝
子組み替え食品にしても、科学の発達、実用化にともない、
国としては、規制法案の立法化などを行わなければならない。
この点に関しての国の遅れは、すでに指摘されている。
科学の世界と政治の世界はうまく絡み合う必要がある。手
をつないで悪いことばかりしていると、国はどんどん腐って
いく。そして何よりも、『被害者』を量産することになって
しまう。実に簡単なことなのだが、日本という国には、あら
ためて国と科学のうまい関わり方を模索していってほしいも
のだ。
[追記]
ちょうどこの本を中ごろまで読んだ時、私は献血に行った。
その事を友人に話すと、とても不思議そうに「どうして献血
なんかするの?痛いだけでしょう?」と尋ねられた。私は、
何度か手術を受けたことのある母が、「誰かの力を貸りたの
だから、恩返ししたい」と言いながらも、いつも検査で献血
ができる体質ではないと判断されているのを見て、自分は輸
血された事はないけど、せめて母のかわりにと思っていた。
私の血液で、きっと誰かが助かっているのだと思えば、なん
だか嬉しい。献血する、しないは個人の自由だから強制はす
るつもりなど、もちろんない。ただ、今回、この本の中で、
厚生省らが、「献血を商品として扱う」ことに同意していた
と知って、驚いた、というか、がっかりした。商品化という
ことは、競争も始まるということ。競争により良い方向にむ
かえば良いが、これまでの経過を見ると、いまいち信頼でき
ない。献血をする人は、歯みがき粉が欲しくてチクリとする
痛みを我慢しているのではない。自分の健康な体に感謝し、
その血を誰かを助ける為に使って欲しいだけだ。何だか素直
な気持ちをふみにじられた様な気がして、献血に行くのが少
し嫌になった。しかし、薬害エイズのことを知った今、私が
献血する理由は一つ増えている。櫻井さんのルポにより、私
にはエイズの知り合いはいないけど、彼らの苦しみや怒りは、
とてもよくわかったつもりだ。だから私はやはり献血をしよ
うと思う。今の私にできる小さな最大限のことである。
*****1999年度・優秀作品*****
冬休みの課題レポート・1999
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