優秀作品(13)

熊本大学・遺伝子実験施設・荒木正健
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2001年 3月28日更新


『死の病原体プリオン』(薬学部)

 私達が耳にしたことのある、狂牛病やヤコブ病というものが同一の仕組みによって起こっているということに驚いた。また、世界中で研究が行われ、その危険性の高さも分っているにも関わらず、私たちの耳にこの病原体とされているプリオンの情報があまり伝わってきていないことにも驚いた。この病原体について未だあまり分っていないのは事実であるが、この蛋白質が関係して、数々の病気を引き起こし、危険性が高いという事実があるにも関わらず、欧州等で対策が遅れたということは閉口するばかりである。薬害エイズに代表される諸々の問題もそうであるが政府や企業の利益ばかりが先行された結果、取り返しつかない事態が引き起こされる。  人間はどうしてこうも同じ過ちばかりを繰り返してしまうのだろうか。
 日本では今のところBSEも新型CJDの例も報告されていないということだが、対策がしっかりしていなければ、いつ私達の身にふりかかってくるか分からない。その上ガイデュシェックのいう最悪のシナリオが起きた場合、食料自給率の低い日本は間違いなく、この死の病原体の恐怖に曝されることになるだろう。はたして本当にこの最悪のシナリオというものが起きるかどうかという問題もあるが、十分に考えられることであり、油断はできない。
 2016年に私たちの世界はどうなっているであろうか。病原体の謎も解明されないまま多くの人々がCJDで死ぬのか、それとも謎が解明されCJDはなくなっているのか。
 感染性スポンジ状脳症病原体について多くの謎が残されている。散発性CJDが起こる仕組みや、真の病原体等がそうである。病原体については、プルシナーの唱える蛋白質設は感染力は証明されておらず、また、この説が実証されれば、これまでのDNAについてのセントラルドグマが覆されることになるため、Prpそのものが病原体になるということは考えにくい。よって私個人の見解としては巻末の解説に書いてあった、ウイルスを覆うようにPrpが存在するという説がもっとも信憑性が高いように感じた。また、新たにディリンガーが発見したウイルス様粒子やバスチアンの唱えるヌピロプラズマ説も今後の展開が待たれるところである。
 私が調べたところ、Prpの生体内での作用は、本の中では解明されていなかったが、Prpは生育には必要ではないが、長期増強や記憶などといった神経機能に必要であることが分かっている。また、酵母のpci及び[URE3]という核外遺伝要素の実体が、実は酵母のプリオンであることが分かっているらしい。正常型の蛋白は酵母間の交配により、不活性型(異常型)蛋白を持つ酵母細胞と細胞質の交換を行うと、不活性型の因子を鋳型にした蛋白コンフォメーションの変換が起こり、細胞内への大半の酵母プリオン蛋白は不活性型になる。このコンフォメーション変化には折り畳み蛋白質(シャベロン)という因子の一種であるHSP104が関与しているらしい。更に、HSP104を不活性型プリオン蛋白質の発現している細胞内で大量発現させると、不活性型から活性型への回復が起こる。つまり、特定シャベロンの大量投与により、感染性スポンジ状脳症を治癒することができる可能性があるということだ。
 人間の遺伝子がどのようなものかということも分かっていなかった時代からのクールーに始まったこの研究は、ガイデュシェックを始めとする多くの研究者達の努力によって進められ、感染性スポンジ状脳症というものの正体がだんだんと明らかになってきている。日本でも福岡研究所に於て、スポンジ状脳症の病気組織中に存在すると思われる核酸をクローニングし、複数のクローン(核酸断片)を得、この遺伝子断片の由来と病態との関連について研究が進められている。多くの研究者が、あらゆる側面から研究を行い、ガイデュシェックのいう最悪のシナリオが実現しないように頑張って欲しいと感じた。またそれが起きたときのために、イギリスの二の舞になってしまわないように、日本での早めの対策を行って欲しいと痛切に感じた。


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