優秀作品(7)

熊本大学・遺伝子実験施設・荒木正健
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2001年 3月28日更新


『イエスの遺伝子』(教育学部)


 私が、DNAの構造について初めて学んだのは高校三年のときだった。  先生から、DHAの構造と、その複製のしかた、タンパク質の合成のしくみを学んだときの感動は今でもよく覚えている。私自身よりも、私の細胞一個の方が、はるかに賢いと感じた。このイエスの遺伝子という本を読んでいる時、私は、この考えが、遺伝子にたずさわる人々には、常識的な考えなんだと感じた。
 この本の中に出てくるブラザーフッドという宗教団体も、結局は遺伝子を重視し、イエスの特殊な遺伝子と一致した人物が再臨したイエスだと、最後まで信じて疑わない。それは、イエスの善行や教えよりも、その特殊な遺伝子による奇跡の力を崇拝しているように思える。やがて、技術が進み、もし、この本のように奇跡を生み出す遺伝子が、発見または開発される時がきたなら、その時は、神に代わって、その遺伝子が崇拝される社会になるかもしれない。それは、決して期待を裏切らない分きっと、何よりも根強い宗教になるだろう。しかし、そんな社会が必ずしも幸せな社会とはいえない。DNAにかかれていることが、その人の全てだとみなされてしまう社会は、それこそ、その人の努力も育んだ性質も、まったく無視された、おそろしい社会である。遺伝子は、万能であるかもしれないが、あくまで、その人をつくる基本的な設計図のようなものであって、そこから、良くも悪くもなるのだということ、遺伝子が、その人の全てではないということを覚えておかなければならないと思う。
 また、遺伝子が解析されることで、もたらされる問題は数限りなくある。
 たしかに、医学は飛躍的な進歩をとげるかもしれないが、その利益以上に社会に害をもたらす可能性も十分ある。今の日本をみればわかるように、日本では、男女平等で身分の差別もない。生活水準もかなり高いし、国民主権で、かなり平和な国である。これは、まさしく、100年前の日本人みんなが望んだ国だろう。しかし、これだけの理想的な社会になったのに、抱える問題は山積みである。予想もしなかった問題が次から次へと出てくるのだ。同じように、人間の遺伝情報が様々なところで利用される社会になれば、一体、今予想されている何倍の問題点が出てくるかわからない。
 私は、この本に登場したトムのように、自分の娘を救いたい一心で、未知の技術を開発し、行うことが、まったく間違っているとは思えない。それは、自分が、その立場になってみなければ、わからないし、娘の命を救おうと必死になるのは正しい姿だと思う。しかし、それにより、数々の問題が生まれてくることも事実だ。
 世の中には、正しいことが多々あって、私も、この遺伝子の問題については、はっきりとした答えを見つけられないし、そんな答えはないのかもしれない。ただ、様々な人が色々な問題点を指摘している中で、科学者達が勝手に先走り、新しい技術を開発していくことは問題があるように思う。もっと反対する人々の意見を聞いて、慎重に事を進める必要がある。問題が起こってからでは遅いと思う。


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