優秀作品(5)

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健

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2007年 5月20日更新


『イヴの七人の娘達』(文学部)

(1)この本を選んだ理由を書いて下さい。
 まずは「イブの七人の娘たち」というタイトルに魅かれました。遺伝子学にもかかわらず個人の話!?と最初は思いましたが、軽く目次と図書紹介のプリントを読んですごく壮大で面白い話だと思ったのでこの本を選びました。

(2)この本で著者が一番伝えたい事は何だと思いますか?
 表紙の絵やP336の1行目から4行目、第23章などが著者の一番伝えたい事だと思う。全人類に平等に遺伝するミトコンドリアDNAを使う事で、どんどん祖先をたどっていく事ができ、結局全人類はみんな平等であり、差別などは無意味である。同族に属しているだけで絆を感じる事もでき、異族の人々とも祖先をたどっていくと様々な関係を持っている事から個人は色んな絆によって全人類とつながっていると伝えたいのだと思う。

(3)この本を読んで感じた事、考えた事を書いて下さい。
 まず、全体を読んでの感想は、一人の研究者の研究が実話をもとに順を追って書いてあって「次は?」と思わず言いたくなるようなわくわくした話だった。また、理系的アプローチばかりでなく自分の思った事や主張そして感情を素直に表現しあって飽きずに二日ほどで読み上げる事ができた。
 次に内容についてだが、ミトコンドリアDNAという言葉がやはりキーワードだと思う。ミトコンドリアは細胞が酸素を使ってエネルギーを作り出す際にその手助けをする細胞小器官であり、その中に含まれるのがミトコンドリアDNAであるという。高校の時生物を履修したわけでないのですべてが初耳だった。特にミトコンドリアDNAが完全なる母系遺伝という点とDループ内の突然変異を数える事で進化の時間が分かるという点には非常に驚いた。
 子が産まれるというのは両親のDNAが等しく伝わる事でできる事だと思っていたが、こういう風に女性からしか遺伝しないDNAもあるのだと知って人間の体って不思議な事だらけだなあと思った。もう1つ進化の時間を計る尺度になるというのは色んな意味で興味を持った。この本の中盤あたりでヨーロッパの祖先の七つの群(クラスター)のうち六つのクラスターが1万年より古い人々から構成されているという著者の新説の紹介があったが、その新説と真っ向から対立したカヴァッリ=スフォルツァという考古学者の説があった。私は「考古学概説」という授業をとっており、その二つの学説の対立はすごく魅きつけられた。授業で歴史学科の甲元先生は、「理化学的アプローチ」は数字やデータに頼りすぎていて性格性にかけ、面白くないとおっしゃていた。その時は炭素年代測定法などを例にあげていた。確かに私も14Cの半減期を勝手に一定と決め付けていた科学者、そして理化学的なアプローチは人間味がなくて無責任な研究だと思っていた。しかし、この著者は理化学的アプローチの中で感性を働かせ、考古学より民俗学に近い研究を試みていたので驚くとともに、自分の固定観念を改めなければならないと思った。そして考古学的について、退化器官(昔役割を担っていた道具の一部が時代を経るごとに渋飾としての役割を担うようになる器官)やクロスナ層(植物が繁茂した事を示す地層)の研究など様々な研究を学んできたが、それだけでは正確な歴史をつかむ事ができない事も分かった。
 やはり研究には色んな視点から物事をみる事が必要だと思う。
 私がこの本を最後まで読んでみて少し疑問に思ったのはアイヌと琉球人は突然変異からそれぞれ同じ縄文人だったのにもかかわらずほとんど接触がなかったことだ。まだアイヌ人と琉球人に分かれる前同じ縄文人だったにもかかわらず接触が少ないという事は、縄文人のグループはそれぞれ全く違う所からある程度離れた場所で生活する様になったのだろうか。そうすれば一応いくつかのグループが狩りで遠く離れた場所まで行って他のグループと接触する例外も起きる可能性がある。ただ日本という狭い国の中で移住しながら生活していたグル−プがそんなに接触を避けられたものだろうか。おそらく最初からアイヌ地方と琉球(沖縄)に移住してきてそこで食料をまかなえたのであまり遠出してまで食料を補給する必要がなかったのだ、と私は考える。アイヌも琉球も豊富な水産資源があるのでそこに落ち着いたのだろう。
 もう1つ疑問が残るとすれば弥生人の移住だ。弥生人は韓国人と共通するところが多いと言う。もしこの人たちが移住してきたとして、どうして日本に大きな影響を与えるほどの大多数で移住してきたのだろうか。もし食料を求めて移住してきたのであれば、琉球やアイヌが水産資源豊富でいいのではないだろうか。しかし弥生時代の弥生人の遺跡はアイヌや琉球にはない。(最新日本史図表、第一学社)これから考えると、大陸で農耕が始まり定住が始まると著書にも書いてあるように人口爆発が起きた。よってより広い土地を確保して農業を始めたいと思ったグループは海を渡り、大陸に最も近い北九州に着いてそこから人が少ない本州の方へと人々が広がっていった。と私は考える。ミトコンドリアDNA研究が日本でも進められてもっと詳しく日本人の起源が分かるようになってくれればいいなぁと思う。
 最後にこの著書が最も言いたい事は「全人類を人種などと言ったグループに分けて差別が起こる事はナンセンスだ!!」という事だと思う。全人類が祖先から枝分かれして今まで来たのであり、全人類はDNAという体の一部によって「みんなが平等だ」と証明されている。他のものでなく、私たち体の一部が語ってくれている事はとても素晴らしい事だと思った。また、これからもっとこの研究が深まって全人類にミトコンドリアDNAの事を知ってもらいたいと思った。


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