2002年度 教養科目
I 自然と情報 生命科学G
−−夢の技術PCR−−
熊本大学・遺伝子実験施設
助教授 荒木 正健
熊本市本荘2−2−1
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2003年 2月23日更新
今年度の期末テストを2003年2月12日(水)に行ったのですが、試験問題を作成する際に、『Inside Nikkei Biobiz 2002/11/01』に掲載された記事を利用しました。これまで期末テストの内容に関しては敢えて公開していませんでした。しかしながら、今回の問題は、非常に刺激的かつ示唆に富んだテーマを含んでおり、生徒が書いた回答も様々な観点から考察されていて、私一人が読むのはもったいないと感じました。そこで、日経BP社へ連絡し、小崎 丈太郎編集長の快諾を得ましたので、公開します。
======= 生命科学G 2002年度 定期試験 =======
(問 題)
「日経バイオビジネス」のメールサービス『Inside Nikkei Biobiz 2002/11/01』に掲載された下記文章を読んで、設問に答えて下さい。
●人体を印刷する??
米国という国は、とにかくアイデアの国です。言い換えると「できる、できない」よりも、まずコンセプトを創造した人間にかなりの対価が約束される国です。DNAチップは遺伝子研究や診断を一変させたすばらしい技術です。アイデアの生みの親は周知の通り米国です。しかし、それが本当に使えるようになった陰には、米国から基本特許を導入した日本企業の研究陣の粘り強い研究がありました。ただDNAをガラスの板に貼り付けただけで、再現性がよい結果が出るわけではなかったということです。これは日本の強みと同時に、「思いつきレベルでいいから、すかさず権利化しておく」という米国風の発想をも示す好例ではないかと思いました。
先日、米国で再生医療の国際会議を取材しました。そこで、ある大学の解剖学の男性研究者が、臓器を印刷する技術について発表していました。IBMのパソコンをつないで細かく条件設定したヒューレット・パッカードのプリンターにインクの代わりに生きた細胞を充填し、印刷する要領で、細胞一つ一つをノズルから射出し、望みの臓器の形に高速度で積み上げていくという技術です。細胞が接着分子などを発現し、接触しあった細胞同士連結して臓器として機能していくというコンセプトです。発表した研究者に声をかけて話を聞きました。彼はこの方法で血管を形成することに成功したと言っていました。「臓器は血管の塊。血管ができれば原理的に臓器も印刷できる。将来は人体だって印刷できるさ。人を創造するのに生殖はいらないんだから、すばらしいアイデアだろう」。
「……。負けた」という感じでした。あまりに突飛。人間が印刷できる日が来るとは思いません。しかし少なくとも、発表者になみなみならぬ野心があることがわかりました。パワーポイントでアニメーションを見せられると、なにか実現しそうな気がしてきます。当然ですが、既に特許も取っているそうです。彼の話を聞きながら、DNAチップの逸話が脳裏をよぎりました。つまり「いつの日か、この人の特許を日本企業が買いつけ、地道に条件設定にとり組む……ということが起こりえるのではないか?」ということです。そう考えると突飛過ぎるけれど、侮れないのです。なお、IBMもヒューレット・パッカードもこの研究をサポートしているわけではないとのことでした。
(A)この記事を読んで感じた第1印象を書いて下さい。
(B)講義で紹介した様に、現在の技術では、胚性幹細胞(ES細胞)や組織幹細胞を分化させて、神経細胞や筋肉細胞などいろんな細胞を得ることは出来ますが、肝臓や腎臓などの臓器を造ることは出来ません。もし、『臓器を印刷する技術』が実用化されれば、患者自身の正常細胞を用いて作製した臓器の移植が可能になります。例えば、胃癌で胃の3分の2を切除しなければならない場合、残っている正常細胞を一部採取し、試験管内で培養・増殖させ、切除する部分の形に合わせて印刷すれば、切除手術をそのまま移植手術につなげることが出来ます。クローン技術の様に妊娠期間や成熟期間を待つ必要はありませんし、ドナーも借腹も必要ありません。あなたは、この『臓器を印刷する技術』の話をどう思いますか?
(C)もし、あなたが雑誌記者で、この解剖学者から「将来は人体だって印刷できるさ。人を創造するのに生殖はいらないんだから、すばらしいアイデアだろう」と言われたら、何と答えますか?
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