2005年度 教養科目
I 自然と情報 最前線の生命科学C
−−夢の技術PCR−−
熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
熊本市本荘2−2−1
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2006年12月28日更新
2005年度の期末テストを2006年2月8日(水)に行いました。ホームページへの掲載について本人の同意を得ています。大変遅くなりましたが、昨年に引き続き公開します。なお、今回も、この講義に対する評価及びアドバイスを含めて公開することにしました。
======= 最前線の生命科学C 2005年度 定期試験 =======
(問 題)
[1]論文ねつ造問題で韓国が騒然となっています。下記ニュースA〜Cを読んで、設問に答えて下さい。
(A)ES細胞すべて捏造 ソウル大最終報告「科学界を欺いた」 [2006年1月10日(産経新聞)]
韓国の国立ソウル大学は10日、内外を騒がせてきた黄禹錫(フアンウソク)教授の胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究捏造(ねつぞう)疑惑について最終調査結果を発表し、人の臓器や組織の再生など再生医療の画期的な発展につながるES細胞の作成には成功していなかったとの結論を確認した。
ソウル大調査委員会はこれまですでに2回似たような発表をしているが、最終報告では2005年論文に加え2004年論文についても捏造とし「黄教授がES細胞作成に成功したといういかなる科学的根拠もない」と断定した。
この結果、世界で初めて難病患者のヒトクローン胚からつくったとする患者適用のES細胞はまったく存在せず完全な捏造と結論付けられ、論文もすべて虚偽ということになった。同委員会は「科学界および大衆を欺くもの」と黄教授を厳しく批判している。
発表によると、黄教授はES細胞作成の前段階にあたる「胚盤胞」の作成技術には達していたとしているが、これもすでに他に前例があり独創的なものではないとし「ES細胞作成の基本的技術はある」とする黄教授の主張を強く否定した。
「黄教授のES細胞は完全虚偽」と結論付けられたことで、黄教授に対する責任問題が改めて表面化しており、検察当局は近く調査に乗り出す方針で法的処罰も避けられない情勢だ。
調査の結果、黄教授は研究のため二千個以上もの卵子の提供を受けたといい、卵子入手の問題点のほか「ES細胞成功」を内外に宣伝し政府などから提供された巨額研究資金の行方なども問題になりそうだ。
韓国世論は一時は国民的英雄だった黄教授に対する失望や怒りが広がる一方で、依然として黄教授擁護論も根強くインターネット上などでは論争が続いている。
【用語解説】ES細胞とヒトクローン胚(はい)
ES細胞(胚性幹細胞)は、万能細胞とも呼ばれ、さまざまな臓器や組織に分化、成長する能力を秘めている。培養すればほぼ無限に増やすことができ、病気やけがで失われた臓器や細胞を修復する再生医療への応用が期待され、世界各国で研究が進んでいる。ただ、第三者の受精卵の胚からつくる方法では患者に移植した際に免疫拒絶反応の恐れがある。倫理上の問題も指摘される。一方、クローン胚は核を抜いた卵子に体細胞の核を移植してつくる。患者本人のクローン胚からES細胞を作成したとする黄教授は、画期的な手法の実践者として注目された。
【黄禹錫教授の研究捏造疑惑】
2004/02/11 「ヒトクローン胚からのES細胞作成に世界で初めて成功した」との論文を米科学誌サイエンスに発表
2005/05/19 「病気の患者の皮膚細胞からクローン技術でES細胞を作るのに成功」とサイエンスに発表
2005/08/04 「世界初のクローン犬を誕生させた」と英科学誌ネイチャーに発表
2005/10月 ソウル大に世界初のES細胞バンク創設。黄教授が所長に就任
2005/11月 黄教授が研究チームの女性2人から実験用卵子の提供を受けていたことを認め謝罪
2005/12/15 韓国メディアが「5月の論文のES細胞は存在しなかった」と疑惑を報道
2005/12/16 黄教授が「論文に添付した写真が誤っていた」として5月論文を撤回
2005/12/23 ソウル大調査委員会が5月論文は捏造だったと発表。黄教授が謝罪会見
2005/12/29 調査委がクローン技術によるES細胞自体が実在しないと中間報告を発表
(B)100人以上の卵巣を摘出か 韓国ES細胞論文捏造 [2006年1月27日(朝日新聞)]
胚性幹細胞(ES細胞)論文を捏造したソウル大・黄禹錫(ファン・ウソク)教授の研究チームが、大学病院から100人以上の卵巣を受け取ったとして韓国保健福祉省が調査に乗り出した。不必要な摘出がなかったか、事前説明は十分だったかなどを中心に法的、倫理的問題について調査を進める方針だという。
聯合ニュースによると、卵巣の摘出手術を行ったのはヒトのクローン胚からES細胞をつくったと黄教授が米科学誌サイエンスに発表した04年論文と05年論文の共同執筆者で、漢陽大学病院の産婦人科教授。
黄教授の研究チームに提供されたのは子宮筋腫などの患者から摘出された卵巣で、黄教授は02〜03年、卵巣に残った未成熟卵を実験に使ったとされる。ソウル大の調査委員会が実験に使ったと明らかにした卵子2061個とは別のものという。卵巣摘出にあたった教授は「患者の同意は得た」と主張している。
(C)卵子提供の66人に金銭 黄教授、国家倫理委が発表 [2006年2月3日(朝日新聞)]
韓国の国家生命倫理審議委員会は2日、胚性幹細胞(ES細胞)論文捏造のソウル大・黄禹錫(ファン・ウソク)教授が、119人から2221個の研究用卵子の提供を受け、うち66人に金銭を渡していた疑いがあるとする中間調査結果を発表した。同委はソウル大調査委とは別に、生命倫理法違反の有無について調査しており、3月に最終結果を発表する。
同法は金銭の提供を禁じている。昨年の法施行後の提供が確認された場合、倫理審議委は告発や行政処分を検討するとしている。また調査では女性研究員からの卵子提供について、黄教授は自主的提供と主張していたが「強制する行為があった」とも判断した。ソウル大の調査では、129人から計2061個の卵子が提供され、一部に「補償金」名目で金銭が渡っていたと最終報告していた。
(問1) 実はこの講義の2003年度期末テストにおいて、「クローン胚盤胞由来のヒトES細胞誕生」のニュース(2004/02/12)を取り上げました。ヒトの体細胞核を、脱核したヒトの卵子に核移植し、発生させた胚盤胞の内部細胞塊から、ヒトES細胞株を樹立したということで、他人の死や機能低下を前提とした臓器移植医療とは次元の異なる再生医療への期待が膨らんでいました。それから約2年間、世界中の生命科学者や難病に苦しむ患者さんは、韓国政府や国民と一緒にだまされていた訳です。(A)〜(C)のニュースを聞いて、あるいはこの事件全般に関して、あなたはどう思いますか?
(問2) クローン研究においては、体外受精を受ける女性に排卵誘発剤を投与して回収した成熟卵子(未受精卵)又は受精卵が使用されます。何らかの異常があったために摘出した卵巣を利用するということは、通常考えられません。しかしながら、卵巣組織の一部や卵巣そのものから未成熟卵を回収して生殖医療に利用する研究が進んでいることも事実です。(B)のニュースを聞いて、あなたはどう思いますか?
(問3) 今回の研究成果はねつ造だった訳ですが、仮に『Therapeutic cloning』の技術が確立し、再生医療の一般的な手法になった世界を想像して下さい。当然ながら、ヒトの卵子が大量に必要になり、『体外受精治療の余剰卵』では不足すると考えられます。もしかしたらヒトの卵子が売買されるかも知れません。(C)のニュースを聞いて、あなたはどう思いますか?
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