2005年度 教養科目
I 自然と情報  最前線の生命科学C
−−夢の技術PCR−−

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
熊本市本荘2−2−1
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2006年12月28日


2005年度期末テスト

[回答集]
<問1について>

(問1)実はこの講義の2003年度期末テストにおいて、「クローン胚盤胞由来のヒトES細胞誕生」のニュース(2004/02/12)を取り上げました。ヒトの体細胞核を、脱核したヒトの卵子に核移植し、発生させた胚盤胞の内部細胞塊から、ヒトES細胞株を樹立したということで、他人の死や機能低下を前提とした臓器移植医療とは次元の異なる再生医療への期待が膨らんでいました。それから約2年間、世界中の生命科学者や難病に苦しむ患者さんは、韓国政府や国民と一緒にだまされていた訳です。(A)〜(C)のニュースを聞いて、あるいはこの事件全般に関して、あなたはどう思いますか?

・私は、このニュースを聞いて、題材となるものが珍しかっただけで、本質としてはあまり珍しいニュースではないと感じました。ただ、難病に苦しむ人を救う、という切実な願いが込められた研究なだけに、黄教授の行為は悪質極まりないと思います。このように、地位ある人〔例えば会社の社長や宗教の教祖、病院の院長など)が個人にとどまらず、社会全体をだましてしまう事件というのは今日よく耳にしています。しかし、一旦真実が明らかになってみると、そのような事件の主犯となる人物の人となりは実にあやしいものです。周囲の人物や、少しでもその世界に見識のある人なら、すぐに「あやしいぞ」と感じて警告を発することもできたのではないかな?と考えてしまいます。この事件にしても、大変多くの科学者が注目していた研究だったわけですから、ニュースをうのみにせず、ニュースが広まり期待が高まる前に、有識者が疑問をなげかけることもできたのではないかと思います。(文学部)

・「患者のために」という本質が医療にはあると思う。黄教授はそれを忘れ、人間の欲に負けてしまったのだと思った。このような研究は、難病で苦しむ患者さんのためにあるはずなのに、名誉やお金と違う方向へ向かってしまっていると思った。そんなためなら、倫理的におかしな、このような研究はもうやめにしたほうが良いと思う。クローン人間なんて考えただけでゾッとする。ドラえもんの世界は、空想の世界であるから面白いのであって、現実には望みたくない。
 ES細胞の研究が成功したとして、その後には卵子の提供の問題も韓国の例のように起こるだろうし、そうなると、先進国でない国の女性達がさらに、その犠牲になっていくような気がする。
 自分が健康であるからこそ言えることなのだが、この研究は本当に必要なのでだろうかと思う。(教育学部)

・黄教授の行った捏造は、絶対に許されるものではないと思います。なぜ捏造を行ったのかは分かりませんが、ES細胞株を樹立することで、それが医療にいかされ、病気が治ると思っていた患者さん達は本当にショックを受けたと思います。ほかにも、法律で禁止されている金銭の提供なども行っているのに、なぜ黄教授を擁護するのか、私にはわかりません。金銭を渡して卵子を受け取って研究していたということは、卵子をただのものとしか考えてなく、それは倫理的に問題があると思います。(工学部)

・テレビ報道で観た黄教授支持派の勢いは、私の想像をはるかに超えた域であった。「クローン胚盤胞由来のヒトES細胞」が誕生しても不思議ではない(研究に関わっていない一般人にとっては)世の中であったがために起きた、科学の急激な進歩が生んでしまったもうひとつの姿なのだろう。この事件全般に関して感じたことは、科学への過度な期待と過信、そして、是が非でもそれを実現させてやろうという研究者の、病的な程の熱意(語弊はあるが…ここでは研究の目的過程が本来の健全なものではなくなっているという意)が垣間見えてならない。決してあってはならないが、科学への過信を疑うという点から見ると、意義のある失敗であったのではないだろうか。(文学部)

・あらゆる人の期待を裏切ったことに関しては教授には何らかの責任をとってもらいたいと思う。しかし、教授達が私たちの期待に応えるために研究を重ねていたことは事実であるし、この研究が続けられれば近い将来ヒトES細胞株は本当に樹立されるかもしれない。そういう意味で、私はこれからも教授に研究を続けてもらいたいと思う。(法学部)

・難病に苦しんでいる、あるいは家族が苦しんでいる人々にとって「クローン胚盤胞由来のヒトES細胞誕生」というニュースは本当にうれしいニュースだったと思う。これでやっと治るかも知れないという希望を持ったであろうに、研究資金や自分の名誉のための捏造だったと分かって本当に悔しかっただろうこういう嘘は一番ついたらいけないと思う。世界中に嘘をついたので歴史に残る大犯罪だ。しかも、女性研究員に強制的に卵子を提供させていたという。こんな人が医療にたずさわっていたなんて考えるだけでも恐い。いくら頭が良くても、やはり基本的な部分が欠けている人だったのではないか。自分のためにこの人は結局研究をしていたのだ。絶対自分はこんな医療関係者になりたくないと思った。自分が医療のために何かしたいと感じた気持ちを忘れずこれからも勉強を続けていきたいと思った。(医学部)

・この論文捏造問題は本当に残念な事件だと思います。自分の名誉欲を満たしたいがために、虚偽の事実を発表した黄教授の責任は極めて大きいと思います。今回の事件は、化学者だけに限らず、あらゆる研究に携わる人々への良い教訓になると同時に、人間の持つ”弱さ”を浮き彫りにしたと感じています。(文学部)

・黄教授の行為に対して、私はとても強い怒りを感じます。たとえどんな実験であっても、生命を扱う以上は命の尊さを学ぶべきだと思います。それがマウスやモルモットでも、細胞であっても、大切にするべきではないでしょうか。記事を読む限り、彼のしたことは今の技術を発展できておらず提供された卵子はいったいどうなっているのかが疑問です。
 また、再生医療の期待を寄せていた人の心の落胆は大きかったのではないでしょうか。難病をかかえている人にはつらかったように思います。
 しかし、彼が論文を捏造したからといって、技術が衰えた訳ではないと思います。責任追及も大切だとは思いますが、次こそは本当にES細胞の作製に成功してほしいです。そして、それまでに法の整備や倫理的問題の解決がなされるべきだと思います。(法学部)

・世界の人々をだましていたこの事件、とても信じられません。この黄教授はきっと地位や名誉、そして金に目がくらんでしまったのだと思います。この新聞の記事を読んでも分かる通り、一つバレルと、どんどん糸がほつれていくものだと分かっていなかったのでしょうか…。この事件は、人々の信頼や期待を全て裏切りました。とても悲しいことです。この教授は、ES細胞作製に成功したと発表してから、たくさんの人々や韓国政府から英雄と呼ばれ、捏造と発覚してからは皆に白い目で見られ、まさに天国から地獄のような出来事だったと思います。この事件を機に、捏造などというむなしいだけの行為がなくなってほしいと思います。人々の信頼を失ってしまうことは一番悲しいことだと思っているからです…。(医学部)

・心情的に考えると、これによって難病に苦しむ患者は多大な望みを失ったと思います。最初から、何もなければ、期待もせずにすんだのに、そこからの失望というのは大きいものだと思います。
 また、政策的なものとして捉えた場合、政府が与えた援助というのは、国民の税金によるものであり、今回事実でないことがわかったために、その税金が、有効に使われていない恐れがあることが判明します。自らの利益のために、これだけ多くの人をだまし、傷つける結果となったことは、決して許されてはいけないし、黄教授の責任追求は、厳しく行われて欲しいと思います。(法学部)

・論文の捏造は、世界中の人々の信頼を裏切ったという点で、決して許されるべきことではないと考えます。我々のような一般市民はまだ「期待を裏切られた」だけですますことができますが、実際この技術の完成に大きな望みをかけていただろう患者さん達や、実験に協力して卵子を提供した人達などの怒りは相当なものだと思います。黄教授ら論文の捏造に関わった人々には、厳しい罰が与えられてしかるべきだと思います。と同時に、やはり(少なくとも今の技術では)人の手でクローン胚由来のES細胞などという夢のようなものを作るのは無理なのだろうか、と少し残念に思いました。(文学部)

・現在の科学全般に対する「あるべき姿」を考えさせられる事件だと思います。メディア等の影響もあると思いますが、民衆に大きな期待をさせつつ、裏切るという行為はあってはならないと思います。
 自分の研究結果が世間に与える影響を考えると捏造という行為はできないと思います。特に、この事件の場合、「生命」に関する研究なだけに影響はさらに大きくなることが予想できたはずです。捏造を行っても結果残るのは失望だけなのに、なぜこのようなことを行ったのか理解に苦しみます。(理学部)

・黄教授の行為には2つの問題があると思います。捏造、つまり多くの人々をだましたというどの分野においても許されないことをしたということと、多くの患者の期待を裏切るという人命に対する怠慢な態度です。ただ正直に言って必ずしもこのことが残念な事件だったとは私は言い切れません。この講義を通して技術の発展による恩恵と悪影響を吟味してきたため、ES細胞の万能さにはやはり期待が大きいものの、倫理的に、叉人類の人口問題を考えると果たして本当に黄教授の不成功が絶望とも言えない気がするからです。ただ、この事件を無駄にすることなく、より多くの一般の人がES細胞に関する研究に興味を持つきっかけになったらと思います。(教育学部)

・いよいよ、再生医療と銘打った生命科学の闇の部分が露見したな、と思いました。ES細胞に関する研究や、それによって生まれた研究結果は、今や化学者達の間だけではなく、テレビやインターネットなどを利用できる人々へも伝わっていきます。世界中の人々の、純粋な期待や、まぶしいほどの希望を、このようなカタチで裏切るとは、許せません。大学内や、黄教授の周りでも、様々な確執かあったかも知れませんが、人々にぬか喜びをさせたのは紛れもない事実。厳しい批判、ないしは処罰を受けても当然でしょう。(文学部)

・私は黄教授に対して、怒りを通りこしてあきれてしまった。自分が注目を浴びたいがために論文を捏造したと思われても仕方ないだろう。たしかに、技術は持っていたのかもしれないが、世界中の人々の、新医療に対する期待を裏切る行為は、犯罪である。捏造を鵜呑にしていた私たちが、馬鹿みたいである。だが、クローン胚盤からのES細胞樹立がもう時間の問題ナノではないかなとも思う。黄教授の捏造がすぐにバレなかったのも、ES細胞樹立がそろそろ成功してもおかしくなかったということもあるのではないか。期待は裏切られたが、希望を捨てるのは早いと思う。(工学部)

・日本でも数年前に遺跡の捏造問題があったのを思い出したが、それとは「責任」という点では、今回の事件の方が罪が重いと思う。前者は単に一個人の社会的信用の崩壊という結末にすぎないが、後者は再生医療への期待を抱いていた、多くの難病患者を裏切り、精神的障害を与えたと言っても良い。その割には平謝り的な謝罪会を見て、いまだに黄教授を支持する愚民が韓国国内に多数存在することをニュース映像で知り、ただあきれるばかりであった。これは、韓国国内に限定した問題ではなく、全世界の生命科学者や難病で苦しむ患者に対して過失があるのだから、国家レベルでの謝罪会見を行うべきである。今回の事件で、生命科学の倫理的な問題はグローバルな性質を持つものであり、謙虚など、絶対にあってはならないものだと、改めて実感した。(医学部)

・B・Cはその取引についてさらに調べその強制性について調べる必要があると思う。もし、強制性がなければ、法的には問題があるものの、倫理的にそう問題があるとは思わない。そもそも、卵子の金銭のからまない取引が本当に成り立つとは思わない(もちろん公の法や、政府的に認めることはできないだろうけど)Aは学者として、最もやってはいけないことだと思うので十分に罰するべきだと思う。(医学部)

・黄教授の度を超えた非常識さが一番の問題であるが、一方で発表された論文が本当に正しいのかを判断する機会が必要だと考える。企業や大学での研究は、自分たちの研究途中のものが外にもれないように閉鎖的なことが多いと感じる。閉鎖的になるのはある程度仕方がないとは思うが、研究を行っている大学内に監査する機関を設けるだけでも、捏造は多く防げると思う。(薬学部)

・私は「ヒトES細胞」のトピックについては、相も変わらず「条件付賛成」、根本的な事情や個人的心情や信条によらないで、社会的に「ヒトES細胞」に対する受け入れや制度の確立が可能である限りにおいては、賛成という立場を取っている。現状では反対と言ってしまってもいいかも知れないが、個人的な感情でいうと「怒りと失望」を感じた。正直な話をしてしまうと、私は「科学的」な技術や発展については、良く分からない。分からないが確かに期待していた。「ひょっとするとひょっとするのか、難病で苦しむ人々が少しでも減るのかと。この講義の前半期でES細胞やPCRについて聞いていただけに、失望もひとしおだった。私でさえ、こうであるのだから、本当に助かるかもしれないと自分や誰かに対して希望ウを抱いていた方々には本当にいたたまれない気持ちでいっぱいである。(法学部)

・だましていたことはもちろん悪いと思うけれどもフアンウソク教授はなぜそのようなことをしたのだろうか。名誉のためだったのだろうか。ES細胞のの研究をしていたのはもちろんそのことについて興味、関心があった殻というのもあるだろうが、難病に苦しむ患者さんを救いたかったという気持ちはなかったのだろうか。どちらもなかったとしたら研究者になるべきではなかったし、どちらかの気持ちがあったのなら自分の行為に対して恥ずべきだと思う。(理学部)

・政府国民の人々の怒りも当然だが難病を抱えた人々はこのニュースを耳にして『病気から解放される日も近い』と希望を持っていたはずである。このように個人の欲のために人々を欺くのは最低だと思うし、許してはいけないと思います。同時になぜ、こんなに事実が発覚するまでに時間がかかったのか?なぜきちんとした証拠があるかを検証せずに記事にしたのか?という疑問を感じました。調査機関が発表以前にきちんと検証することで、二度と同じ失敗が無いようにしてほしいと思います。(理学部)

・皆同じ気持ちだと思うが、大変許されないことだと思う。このニュースを聞いたころES細胞がどれほどのものか知らなかったが、入学しES細胞がどんなものか知った時、この研究に対して威敬の念を抱いた。しかし、すべて捏造だったということは、我々や卵子等の提供者、さらにはES細胞による病気の治癒を期待していた患者達もすべてだもしていたことになる。ましてや卵子提供者には金銭を渡すこともあったと書かれている。
 科学者としてよりも、人間として彼を信じられない。世界中の人々を裏切る行為である。(医学部)

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