研究発表を行った学会;オリジナルデータ
タイトル; マウスゲノムにおいて遺伝子は無いのに遺伝子トラップクローンが集積している領域(TCAA)の解析.
発表者;荒木 正健氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター ゲノム機能分野)
要旨;
我々は、「可変型遺伝子トラップ法」を開発し、データベースEGTC (Database for the Exchangeable Gene Trap Clones)を公開している。遺伝子トラップクローン(TC)の解析を行う過程において、遺伝子は無いのにTCが集積している領域を発見した。このような領域をTCAA (Trap Clone Accumulated Area)と呼ぶことにする。本研究の目的は、この不思議な領域であるTCAAがマウスゲノム全体でどのくらい存在するのかを探索し、その生理機能を解明することである。
EGTCも加入しているIGTC (International Gene Trap Consortium)のTCがトラップした遺伝子の位置が記録されているUCSC Genome Browser on Mouse July 2007 (NCBI37/mm9)を用いて、各染色体(Chr.)のTCAAの探索を行った。その結果、マウス染色体全体で1109個のTCAAを同定した。平均すると1 Mbpあたり0.42個である。常染色体の中で最もTCAAの数(頻度)が多かったのはChr.11 (0,85/Mbp)で、最も少なかったのはChr.12 (0.24/Mbp)であった。また性染色体に関して、ES細胞はオスの細胞を用いているので、Chr.XのTCは少ない傾向があり、TCAAも少なかった。
次にTCAAの生理機能を推定するために、Chr.1上で遺伝子もTCも存在しない領域(C; 50個)、ランダムに選択したChr.1上の遺伝子(G1; 50個)及び多能性維持に関与していると考えられている遺伝子(G2; 41個)を対照群として、Chr.1, 4, 7, 11, 18, X上のTCAAのES細胞におけるRNA-seq、ATAC-seq、及びOct4-ChIP-seqのデータを検討した。その結果、TCAAはコントロール領域と比較して、ES細胞で発現していること、TCAAではクロマチンがオープンになっていること、TCAAにはOct4が結合していることが明らかになった。
これらのことから、TCAAはES細胞の多能性維持に深く関与している可能性が示唆された。