研究発表を行った学会;みらい研究「LINE-1 解析を起点とした癌と精神疾患の病態解明」公開シンポジウム
2020年 1月16日(熊本市)
タイトル; 胃癌Cancer associated fibroblasts由来細胞外小胞を介した抗がん剤抵抗性獲得メカニズムの解明.
発表者;内原 智幸氏
(熊本大学 大学院生命科学研究部 消化器外科学教室)
要旨;
【はじめに】腫瘍間質において癌関連線維芽細胞 (Cancer associated fibroblast: CAFが分泌する液性因子が癌細胞の抗癌剤感受性を制御することが示唆されてきたが、その詳細な分子機構は明らかではない。
【対象・方法】胃癌切除検体を用いて、CAFマーカーであるαSMAの免疫染色・定量化を行い、予後との関連性を評価した。CAFのconditioned medium (CM)およびCAF-CMから抽出したextracellular vesicles (EVs)を用いて胃癌細胞を培養した。CAF-CMおよびEVs刺激による胃癌細胞の遺伝子発現変化、抗癌剤感受性についてin vitro, in vivoで検討した。さらに胃癌由来EVs、CAF由来EVs を用いた質量分析を行った。
【結果】胃癌切除標本において、腫瘍間質にCAFが多い症例は有意に予後不良であった。またサブグループ解析において、化学療法を行ったStageIV症例では、CAFが多い症例は特に予後不良であった。In vitroの検討では、細胞外マトリックス存在下においてCAF-CM中で培養した胃癌細胞は、network様の形態変化を起こし、顕著な抗癌剤抵抗性を獲得した。次にRNA sequencingによる解析の結果、CAF-CMを加えた胃癌細胞ではIntegrin signalに関わる遺伝子群の発現が有意に亢進していた。さらに、CAF-CMから抽出したEVsを加えた胃癌細胞も同様にnetworkを形成し、抗癌剤抵抗性を獲得した。EVsの質量分析の結果、CAF-EVs由来タンパク質のうち、AnnexinA6が今回の現象に重要であることを同定した。さらにCAF-EVsを介して胃癌細胞に取り込まれたAnnexinA6はIntegrinβ1を細胞膜上に安定化し、細胞外マトリックスとの相互作用を介したFAK/Aktシグナル活性化により抗癌剤への抵抗性を示した。また、腹膜播種モデルマウスを用いた検証において、CAF-EVsが促進するFAKシグナルが抗癌剤抵抗性獲得に関わることを示した。
【まとめ】CAF-EVs中のAnnexinA6が、胃癌細胞のIntegrin signalを活性化し抗癌剤抵抗性を示すという新しい分子機構を明らかにした。