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202303Ikeda

研究発表を行った学会;令和4年度創薬・生命薬科学科卒論発表会
2023年3月1日 (熊本大学薬学部)
タイトル; 遺伝子はないのにトラップクローンが集積している領域TCAAの解析.
発表者;池田 琉那氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター ゲノム機能分野)
要旨;
【背景】 我々は、可変型遺伝子トラップクローンデータベース(EGTC)を構築し、全世界に公開している。可変型遺伝子トラップ法は、薬剤耐性遺伝子を含むトラップベクターをマウスES 細胞のゲノムにランダムに導入し、ES 細胞で発現している遺伝子に挿入されたときのみ、その遺伝子を破壊する。トラップした遺伝子は5’-RACE で特定が可能である。このトラップクローン(TC)の解析を行っている過程で、遺伝子が存在しないのにTC が多く集積している領域を発見した。この領域をTrap Clone Accumulated Area (TCAA)と名付けた。そしてTCAA の定義として、(1)RefSeq genes およびUCSC genes に登録されている遺伝子が一つもないこと、(2)International Gene Trap Consortium (IGTC)に登録されているTC が20 個以上集積していること、(3)TC とTC の間が5 kbp 以上空いていたら別領域と判断することの3つを設定した。本研究は、TCAA がマウスゲノム全体でどの程度存在するのかを調査し、その生理機能の一部を解明することを目的としている。
【方法】 解析には、IGTC のTC が登録されているUCSC Genome Browser on Mouse July 2007(NCBI37/mm9)を用いた。コントロール群は、染色体1 番、11 番から遺伝子もTC も存在しない領域(C1・C11)、既知遺伝子を含む領域(G1・G11)を選出した。また、ES 細胞の多能性維持に関与しているとされているLif やJak1 などを含む領域(GP)を選出した。過去の実験より得られたマウスES 細胞におけるRNA -seq、Oct4-ChIP-seq、ATAC-seq のデータをUCSC Genome Browser に登録し、領域内のピークの最大値を記録した。同様にヒストン修飾であるH3K4me1、H3K4me3、H3K9me3 のChIP-seq のピークの最大値も記録した。
さらに、ES 細胞以外の組織と比較するため、3 つの細胞株(CH12、MEL、DMSO 処理したMEL)と5 つの組織(腎臓、胚、マウス胎児線維芽細胞、精巣、全脳)でのH3K4me3 のChIP-seq のピークの最大値を調べた。
【結果】 TCAA は全染色体で1104 個発見された(2022 年4 月22 日時点)。また、RNA-seq のデータから、ES 細胞においてTCAA は発現していることが示された。加えて、ATAC-seq より、TCAA はクロマチンがオープンになっていること、Oct4-ChIP-seq より、ES 細胞の未分化維持に重要な因子であるOct4 が結合していることが明らかになった。さらに、エンハンサー活性H3K4me1 はES 細胞で発現している遺伝子と同等に高かった。プロモーター活性 H3K4me3 はGP より低いが、G1・G11 と同程度に高かった。ES 細胞以外の細胞株・臓器でのH3K4me3 ChIP-seq は、C1・C11 より高い傾向にあるが、G1・G11 およびGP と比べて低かった。
【結論・展望】 以上より、TCAA はエンハンサー活性、プロモーター活性を有していることから、ES 細胞においてエンハンサーの機能を持つ領域、もしくは未知の遺伝子の可能性が示唆された。今後は、特徴的な領域を選び、それぞれノックアウトしたマウスを用いて表現型解析を行う予定である。

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