『治療抵抗性機構の解明とそれを標的とした治療戦略』
藤田医科大学 がん医療研究センター センター長
佐谷 秀行
がん幹細胞は、がん組織の起源となり、その維持を担う細胞である。臨床的に見てがん幹細胞の最も重要な特徴は、種々の治療に抵抗性を示し再発や転移の原因になることである。しかし、その治療抵抗性のメカニズムは多彩かつ複雑である。私たちは、長年にわたるがん幹細胞の特性解析により、治療によって生じるストレスをがん細胞が回避する2つのメカニズムを明らかにした。一つは活性酸素の上昇によって誘導される細胞死、つまりフェロトーシスに対する耐性機構(Cancer Cell 2011; Nat Commun 2012; Oncotarget 2018; Cancer Sci 2020)である。もう一つは抗がん剤によってもたらされる細胞骨格変化が引き起こす核内因子MKL1の活性化に基づく機構(Nat Commun 2014;Cancer Res 2019)である。更に私たちはそれらの耐性を打破するためにFDAで承認されている既存薬ライブラリーを用いたスクリーニングを行い、効果が高い薬剤を取得することが出来た。本セミナーではこれらのがん幹細胞の治療耐性機構を基礎研究データに基づいて解説し、ドラッグリポジショニングを用いた新たな治療戦略を提示し、その実装化へのアプローチについて述べてみたい。