ゲノム編集と受精研究への応用
大阪大学微生物病研究所 教授
東京大学医科学研究所 特任教授 伊川 正人
CRISPR/Cas9ゲノム編集システムの登場により、遺伝子破壊マウスの作製がコスト、労力、期間などの点において大きく改善した。本講演では、同法を活用し、我々の研究室で行っている精巣特異的に発現する遺伝子群の遺伝子破壊 (KO) マウス作製と表現型解析について報告する。我々は、文献およびデータベース検索から、ヒトとマウスで保存されており、精巣特異的に発現する遺伝子を約1,000個リストアップした。従来法およびCRISPR/Cas9法により遺伝子KOマウスを作製したところ、妊孕性を調べた256遺伝子の内、約6割に相当する161遺伝子のKOマウスでは外見上の異常も顕著な妊孕性の低下も認められなかった。その一方で、精子受精能力に必須な69遺伝子を新たに見つけることができた。言い換えれば、ゲノム編集技術を活用すれば、個体レベルで重要な遺伝子を先に選び出して研究を進められることから、費用や労力・時間に対して得られる成果が大幅に改善され、生物学研究に躍進をもたらすと言える。