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遺伝子組換え生物等規制法について・Part13 

*GTC On Line News No.683 (2006年4月4日)で配信した内容です*

=== 遺伝子組換え生物等規制法について・Part13 ===
〜〜〜 遺伝子改変マウスについて 〜〜〜
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遺伝子実験施設では、『遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律』(規制法)等の概要を、数回に分けてGTC On Line Newsで紹介し、ホームページに掲載しています。
今回は、遺伝子改変マウスについてまとめてみます。まず、次の問題を考えて下さい。

問題;次の中から規制法の対象になるものを選んで下さい。
(a) 自然発生突然変異マウス
(b) トランスジェニックマウス
(c) 化学変異マウス(ENUなど)

 

正解は (b) です。外来性の遺伝子をマウス染色体に挿入した「トランスジェニックマウス」が規制法の対象になるという事は、ほとんどの方が理解出来ると思います。また、「自然発生突然変異マウス」が対象にならないということも、人工的に造られたものではない訳ですから理解出来ると思います。難しいのは「化学変異マウス」でしょう。ポストゲノム時代になり、生体内における遺伝子の機能解析を行うために「遺伝子改変マウス」の重要性は増しています。「遺伝子改変マウス」を効率的に作製するために国家レベルのプロジェクトとして進められているのが、化学変異原ENU (N-ethyl-N-nitrosourea)を用いたランダムミュータジェネシスです。
「遺伝子改変マウス」なのに規制法の対象にならないのはなぜでしょうか?
それは、この様な化学物質や紫外線による遺伝子の損傷(改変)は自然界でも起こっているからです。つまり、このプロジェクトで人工的に作製されたマウスは、結果的に「自然発生突然変異マウス」と同じものであると考えられます。この様な場合、『ナチュラルオカレンス(注1)』として規制法の対象から除外されます。同様に、マウスの遺伝子断片だけを受精卵にマイクロインジェクションして作製したトランスジェニックマウスも、『セルフクローニング(注2)』として規制法の対象になりません。これに対してノックアウトマウスを作製する場合は、セレクションマーカーやloxPサイト(注3)等マウス以外の種に由来する遺伝子断片が残りますので規制法の対象になります。「ジーントラップ」も「遺伝子改変マウス」を効率的に作製するための有力なランダムミュータジェネシスですが、異なる種に由来する遺伝子断片を持つトラップベクターを染色体に導入しますので規制法の対象になります。
(注1)ナチュラルオカレンス;組換え体と同等の遺伝子構成を持つ生細胞が自然界に存在する場合。異種間でも、自然条件下で遺伝子を交換することが知られている場合。
(注2)セルフクローニング;宿主もベクターも導入する遺伝子もすべて同じ種から由来する遺伝子操作。
(注3)loxPサイト;部位特異的組換え酵素Creの標的配列。バクテリオファージP1由来。コンディショナルノックアウトマウスの作製などに利用される。

次に、遺伝子改変マウスの第2種使用を行う場合の拡散防止措置の区分について考えてみます。
GTC On Line News No.483(2004年3月4日)において、拡散防止措置の区分のおおまかな考え方を箇条書きにしました。まず、マウスを含めた動物の実験分類はクラス1です。しかも組換え動植物の場合は、核酸供与体の実験分類に関係なく宿主の実験分類だけで拡散防止措置の区分が決まりますので、P1レベルになります。ただし、動物を扱うためのA措置は必要ですので、P1Aレベルということになります。
もちろん、法律制定前にP2レベルの遺伝子組換え動物として安全委員会の承認を受けていたマウスも、規制法上の取扱はP1Aレベルになります。P2AやP3Aレベルというのは、ウイルスに感染したマウスまたはウイルスを産生するマウスの使用に限られます。ここで注意していただきたいのは、規制法上の実験区分として、遺伝子組換え動物を使用する実験はすべて「動物作成実験」になることです。他機関で作製されたノックアウトマウスを購入して飼育するだけでも「動物作成実験」になります。これに対して、遺伝子組換えウイルスを正常なマウスに感染させる実験などを「動物接種実験」と呼びます。「動物使用実験」という言葉は、「動物作成実験」と「動物接種実験」の総称ですのでご注意下さい。

最後に、大臣確認が必要かどうかを考えてみます。遺伝子改変マウスそのものは基本的にP1Aレベルの機関承認実験です。ウイルスがからむ場合は、そのウイルスを宿主として考えなければなりません。クラス3のウイルスを宿主として使用する場合は大臣確認が必要ですし、クラス2やクラス1にランクされるウイルスでも自立的な増殖力及び感染力を保持している場合は大臣確認が必要です。さらに、本来マウスに感染しないウイルスのレセプターを発現するトランスジェニックマウス(例えばポリオウイルスのワクチン検定用に使用されているマウス)を使用する場合も大臣確認が必要です。これは、もしこのトランスジェニックマウスが自然界に拡散した場合、新たなウイルスキャリアーになる可能性が高く、生物多様性に対して悪影響を及ぼす危険性が高いからです。例えば5年前に作製したトランスジェニックマウスのトランスジーンが、今年になってあるウイルスのレセプター遺伝子であることが判明した場合にも適用されますので要注意です。ただし、大臣確認が必要と言っても、この場合の拡散防止措置の区分はP1Aですのでご安心下さい。

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