研究発表を行った学会;
アジアマウスミュータジェネシス&リソースアソシエーション
2017年 8月26日(インチョン、韓国))
タイトル;精子冷蔵保存技術を用いたマウスリソースの効率的な補完システムの開発.
発表者;桐木平 小春氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野)
要旨;
マウスは、生命科学研究に最も用いられている実験動物です。中でも、遺伝子を人為的に操作したマウス(遺伝子改変マウス)は、遺伝子の役割を明らかにする研究や人の病気を治すための研究に利用されています。熊本大学生命資源研究・支援センターでは、遺伝子改変マウスを用いた研究を推進し、さらに研究者を支援することで、人が健康に暮らせる社会の実現を目指しています。当センターの特徴的な活動として、マウスバンクがあります。マウスバンクとは、遺伝子改変マウスの作製、収集、保存および供給を行うことで、貴重な研究資源である遺伝子改変マウスを誰でも簡単に見つけることができ、研究に利用できるようになっています。
これまでに私達は、マウスバンクシステムを改良するために、様々な生殖工学技術を開発してきました。例えば、マウス精子や受精卵の凍結保存技術を開発し、マウス個体ではなく、生殖細胞を保存することで大量に作製された遺伝子改変マウスを効率的に保管しています。また、雌マウスから排卵させる卵子の数を増加させる過剰排卵誘起法や体外で受精卵を作製する体外受精技術の開発にも成功しており、1度に大量のマウスを作製することが可能になっています。生殖工学技術の活用は、マウスバンクや遺伝子改変マウスを用いて実験を行う研究施設において必要不可欠になっています。
近年、私達は、遺伝子改変マウスの簡便な輸送法として、精子の冷蔵輸送技術を開発しました。一般的に、マウス精子は、冷蔵温度下において24時間以内に受精能が低下します。一方で、私達が新たに開発した精子の冷蔵保存技術では、約10倍である240時間保存しても受精能を維持することができます。精子の冷蔵保存における受精可能時間を延長したことにより、遺伝子改変マウスを個体ではなく、精子として世界中の研究機関に輸送することが可能になりました。しかしながら、現在の技術では、冷蔵輸送された精子を速やかに体外受精に使用する必要があり、受け取った研究機関における用途が制限されています。冷蔵輸送された精子を凍結保存することができれば、遺伝子改変マウスの簡便な輸送と保管を可能にする技術として、さらに有用性が高まります。
そこで本研究では、精子の冷蔵保存技術を改良し、冷蔵輸送後に精子を凍結保存できる技術の開発を行いました。まず、私達が精子に対する冷蔵保護効果を見出したdimethyl sulfoxide (DMSO) およびquercetinの最適濃度を検討し、5% DMSO + 40-60 g/mL quercetin処理において、冷蔵/凍結精子の直進精子運動率、体外受精における受精率が増加しました。体外受精により得られた受精卵は、胚移植により産子へと発生することも確認しました。また、本技術を用いて冷蔵輸送実験(旭川医科大学-熊本大学)を実施し、冷蔵輸送後に凍結保存された精子の受精能や作製された受精卵の産子への発生能も確認できました。以上の結果から、DMSOおよびquercetinを用いることで、精子冷蔵輸送技術を用いた遺伝子改変マウスの効率的な収集・保存システムが確立され、遺伝子改変マウスを用いた研究の推進に貢献できると考えています。
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