研究発表を行った学会;
老化メカニズムの解明・制御プロジェクト 第一回淡路島リトリート
2018年2月12日〜13日 淡路夢舞台国際会議場(兵庫県淡路市)
タイトル;Unique response of cancer- and senescence- registant rodent “Naked mole-rat” to cellular senescence induction.
発表者;三浦 恭子
(熊本大学 大学院生命科学研究部 老化・健康長寿学分野、大学院先導機構)
要旨;
ハダカデバネズミ(naked mole-rat, NMR)はアフリカのサバンナ地中にトンネル状の巣を形成して集団で生息する「真社会性」の齧歯類である。驚くべきことに、ハダカデバネズミはマウスと同等の大きさながら平均寿命が約30年という異例の長寿齧歯類であり、生存期間の8割の期間は老化の兆候を示さず、加齢に伴う死亡率の上昇も認められないという老化耐性の特徴を有している。
本研究ではハダカデバネズミの細胞レベルにおける老化耐性機構の有無を明らかにすることを目的に、ハダカデバネズミおよびマウス成体皮膚線維芽細胞において細胞老化を誘導し、細胞応答について解析を行った。その結果、マウスと比較してハダカデバネズミ線維芽細胞では老化マーカー陽性細胞の割合が低く、細胞老化誘導に抵抗性がある可能性が考えられた。しかし、詳細に解析したところ、細胞老化誘導の際、ハダカデバネズミ細胞では他種ではほとんど見られない細胞死が顕著に亢進することが分かった。さらに、ある老化関連遺伝子を、細胞老化を起こしていないハダカデバネズミおよびマウス線維芽細胞に導入したところ、両者で増殖の停止、形態の扁平化が見られたが、ハダカデバネズミのみで細胞死の上昇が認められた。また、UV照射によりハダカデバネズミおよびマウスの皮膚に細胞老化を誘導したところ、マウスでは老化マーカー陽性の細胞が増加したのに対し、ハダカデバネズミでは老化マーカー陽性細胞は稀にしか認められず、細胞死マーカー陽性の細胞が増加した。これらの結果から、ハダカデバネズミ細胞では種特異的に、細胞老化時に細胞死を引き起こすシグナル伝達経路が存在し、結果的に老化細胞の蓄積を抑えるのに寄与している可能性が考えられ、現在さらなる解析を進めている。