研究発表を行った学会;
第12回日本エピジェネティクス研究会年会
2018年5月24日〜25日(札幌市)
タイトル;リジン脱メチル化酵素LSD1はグルココルチコイドによる骨格筋代謝プログラムを調節する..
発表者;阿南 浩太郎 氏
(熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野)
要旨;
骨格筋は運動器であるとともに、生体内のエネルギーを産生・消費する代謝臓器である。栄養環境に応じて、異化と同化のバランスを可塑的に変換できる。こうした骨格筋の表現型が形成される過程では、代謝および筋線維の遺伝子群のエピゲノム制御が共役すると予期できるが、その分子機序には不明な点が多い。リジン脱メチル化酵素LSD1は、フラビンFAD依存性にヒストンH3K4me1/me2を脱メチル化することで遺伝子発現を抑制する。我々は、LSD1が異なる細胞種(脂肪細胞、肝細胞、血液細胞など)で代謝制御に重要な役割を果たすことを報告してきた。今回、マウス筋芽細胞C2C12の分化系を用いて、トランスクリプトームおよびChIP-seq解析を行い、LSD1が好気的代謝と脂肪酸代謝に関わる遺伝子群に加え、これらと共役する遅筋線維遺伝子群の発現をともに抑制することを見出した。LSD1は代謝関連遺伝子座のプロモーター領域、筋線維遺伝子座のエンハンサー領域に集積し、これら標的部位におけるH3K4を脱メチル化することによって遺伝子発現を抑制していた。興味深いことに、異化ホルモンであるグルココルチコイドの作用により、LSD1のE3リガーゼJade-2の発現が誘導されて、LSD1タンパク質の分解が促進された。またグルココルチコイドとLSD1阻害の併用によって、代謝関連および筋線維遺伝子の発現変化が著しく増強された。さらにマウス個体において、骨格筋のLSD1はグルココルチコイド経路で減少することが判明した。以上の結果から、LSD1は環境応答性に働くホルモンの作用下に、骨格筋の分化型代謝を協調制御することが明らかになった。