研究発表を行った学会;新学術領域「マルチスケール精神病態の構成的理解」班会議
2019年 8月31日(静岡県 熱海市)
タイトル; 発達期poly(I:C)曝露によって起こる神経前駆細胞
トランスポゾンLINE-1の挙動.
発表者;村田 唯氏
(熊本大学 大学院生命科学研究部 分子脳科学講座)
要旨;
過去の疫学調査や遺伝学的解析から、統合失調症を含む主要な精神疾患の発症には、遺伝要因が強く関わっていることが示されている。しかし、現在までに検出できた遺伝因子すべてを考慮しても発症要因を説明することが困難であることから、発症には遺伝のみではなく環境要因との相互作用が重要であると考えられている(Nishioka et al., Genome Medicine 2012)。近年のゲノム研究から、DNAメチル化などのエピゲノム修飾状態やトランスポゾン変異など環境の影響を受けて変動する要因の関与が注目されている。近年我々は、統合失調症患者脳組織においてlong interspersed element-1 (LINE-1)のコピー数が増大していることを報告した(Bundo et al., 2014)。さらに、精神疾患動物モデルであるpoly(I:C)投与マウス脳組織や22q11欠失を持つ統合失調症患者由来iPS細胞においても、LINE-1コピー数が増大していることを見出した。LINE-1は哺乳類ゲノムに約20%の割合で存在し、自身の配列を増幅することでゲノム全体の安定性や他遺伝子の発現に影響を及ぼす。LINE-1をはじめとするレトロトランスポゾンは生殖系列の細胞だけでなく脳神経系細胞でも新規転移が生じていることが報告されており、精神疾患の病因や病態に密接に関係していると考えられている。しかし、脳組織におけるLINE-1コピー数増大が、どのような分子メカニズムによって生じているのかについては不明である。そのため現在、poly(I:C)投与モデルを用いてLINE-1転移活性制御に関連する分子メカニズムを探索する検討を行っている。
今回、安定したLINE-1コピー数増大を惹起させるpoly(I:C)モデルの作製条件を検討し、確立した投与プロトコールを用いて、胎生期神経幹細胞・神経前駆細胞におけるLINE-1配列のDNA修飾状態および網羅的な遺伝子発現量解析を行った。その結果、poly(I:C)投与モデルマウスでは、特定のLINE-1サブタイプのプロモーター領域においてハイドロキシメチル化率の上昇を認めた。また、RNA sequencingによる網羅的発現量解析から、poly(I:C)投与モデルマウス神経幹細胞・神経前駆細胞では、免疫応答に関連する遺伝子群の過剰発現を認めた。本解析結果から、胎生期poly(I:C)曝露によるLINE-1転移活性の異常には、LINE-1サブファミリー依存的なエピゲノム状態変化や免疫応答関連遺伝子の発現異常が関わっている可能性が示唆された。
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