研究発表を行った学会;第42回日本分子生物学会年会
2019年12月3日〜6日(福岡)
タイトル; Nuageの形成を阻害する化合物の作用機構解析.
発表者;本庄 綾香氏
(熊本大学大学院 自然科学教育部理学専攻 生物科学コース 谷研究室)
要旨;
動物の生殖細胞には、nuageと呼ばれる細胞質構造体が核膜孔付近に存在する。
Nuageには、piRNAの生合成に関与する因子が数多く局在することから、piRNA生合成の場として考えられている。piRNAは生殖細胞特異的に発現するnon-coding RNAの一種で、Argonauteタンパク質であるPIWIに結合してpiRISCを形成した後、ゲノムの安定性に影響を与えるトランスポゾンの発現を抑制することでゲノムDNAの恒常性を維持している。しかし、細胞内におけるnuageの詳細な機能や形成機構については、不明な点が数多く残されている。
我々はnuageの機能解明を目的として、化合物ライブラリーを用いてnuage形成に影響を与える化合物のスクリーニングを行った。スクリーニングは、カイコ卵巣由来生殖細胞株であるBmN4細胞を用い、nuageに局在するカイコPIWIタンパク質の1つであるAgo3の局在変化を指標に行った。その結果、Ago3の局在に影響を与える化合物を2種(NSC95397及びBorrelidin) 同定した。通常、Ago3は核膜付近に顆粒状に局在しているが、これらの化合物で処理すると、Ago3が顆粒状集積から分散する表現型 (NSC95397) と、Ago3の斑点状集積が肥大化する表現型 (Borrelidin) が示された。NSC95397は二重特異性プロテインホスファターゼ阻害剤、Borrelidinはサイクリンキナーゼ阻害剤として知られている。従って、nuage形成機構には何らかの因子のリン酸化制御が関与している可能性が考えられた。また、NSC95397やBorrelidinで処理しnuage形成に影響を与えると、ClassⅠ(retrotransposon type)に属するPaoやL1Bmトランスポゾンの発現量が大きく上昇する一方で、ClassⅡ(DNA type)のBmpiggyBacトランスポゾンの発現は上昇しなかった。従って、これらの化合物はトランスポゾンの種類によって異なる影響を与える可能性が考えられた。また、これらの化合物が生物種を超えてnuage形成に影響を与えるかどうかを調べるため、ショウジョウバエ生殖細胞のnuageに対するBorrelidinとNSC95397の作用も解析中なので、その結果についても報告したい。
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