研究発表を行った学会;第44回日本分子生物学会年会
ワークショップ「新たな国民病、慢性腎臓病の病態を分子生物学的に解明する」
2021年12月1-3日 (横浜市/オンライン ハイブリッド開催)
タイトル;ヒトiPS細胞由来腎臓ネフロン前駆細胞の増幅培養法の確立と病態再現.
発表者;谷川 俊祐氏
(熊本大学 発生医学研究所 腎臓発生分野)
要旨;
生命の維持に必須の器官である腎臓は一度機能を失うとほぼ再生しない。胎児期には尿を産生する重要な組織であるネフロン(糸球体と尿細管)を作るネフロン前駆細胞が存在する。しかし、その細胞は腎臓が出来上がる出生前後に消失してしまうため、そのことが腎臓が再生しない理由の一つと考えられている。当研究室では、ヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を誘導し試験管内で3次元の腎臓組織を再構築することに成功している (Taguchi et al., 2014&2017)。さらに、この系を先天性ネフローゼ症候群の患者から樹立したiPS細胞に応用し、初期段階におけるスリット膜形成の異常を腎オルガノイドによって再現した(Tanigawa et al., 2018)。これらの方法を基盤として病態メカニズムの解明や薬剤開発、さらに再生医療へ応用するためには、大量のネフロン前駆細胞が必要である。我々は、腎臓発生学から得られた知見をマウスのネフロン前駆細胞の増幅培養法の確立に適用し(Tanigawa et al., 2015&2016)、それを基にヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞の増幅培養法を確立した(Tanigawa et al., 2019)。増幅したネフロン前駆細胞は試験管内で高効率にネフロンを構築する能力を持ち、免疫不全マウスに移植すると、糸球体が血管と繋がり成熟化する。増幅した細胞は凍結保存が可能で融解後もネフロンへの分化能を保持している。そのため、ヒトiPS細胞から腎臓前駆細胞を誘導する2週間の時間と技術習得を省略し、腎臓組織を作ることが原理的に可能である。この増幅培養系は、生化学的解析を組み合わせることで病態メカニズムの解明へ貢献することが期待できる。
アクティブボード
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