研究発表を行った学会;第69回日本実験動物学会総会
2022年 5月 18-20日(仙台国際センター)
タイトル; 生殖工学技術を活用したNiemann-Pick病C型モデルマウスの効率的な繁殖システムの構築.
発表者;黒島 星利菜氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野)
要旨;
【目的】ニーマンピック病C型 (NPC) は、リソソーム内にコレステロールや糖脂質の蓄積が起こる常染色体劣勢遺伝形式の先天代謝異常症である。NPCは、難治性の疾患であり、これまでに有効な治療法は確立されておらず、新規治療法の開発が望まれている。NPCに対する新規治療法の開発には、NPC病態モデルマウスとしてNpc1欠損 (Npc1-/-) マウスが使用されている。しかしながら、Npc1-/-マウスは、雌雄不妊のため自然交配による繁殖が不可能であり、個体数の確保が困難であることが薬効評価の障害となっていた。Npc1-/-マウスの繁殖課題を克服するには、生殖工学の利用が有効だと考えられるが、過去に体外受精の成功例は無い。これまでに当研究室では、排卵数を増加させる過剰排卵誘起法、低受精能を克服する体外受精法、受精能を維持する精子凍結保存法を開発している。そこで本研究では、これら生殖工学技術を組み合わせ、Npc1-/-マウスに対する体外受精条件を最適化することで、Npc1-/-マウスの効率的な繁殖システム開発を試みた。
【方法】Npc1-/-雌マウスに対して、過剰排卵を処置し (ウマ絨毛性ゴナドトロピン: eCGもしくはeCGとインヒビン抗血清の合剤: IASe)、各週齢 (4~8週齢) における排卵数を比較した。また、Npc1-/-雄マウスから精子を採取し、各週齢 (7~9週齢) における精子運動能を評価した。次に、新鮮精子を用いた体外受精を実施し、還元型グルタチオン (GSH) が受精能に及ぼす影響を検討した。さらに、Npc1-/-雄マウスの凍結精子を用いた体外受精を行った。上記の検討で決定した最適条件を用いて、野生型、Npc1+/-およびNpc1-/-マウスを用いた体外受精を実施し、各遺伝子型の二細胞期胚を作製した。体外受精により得られた二細胞期胚は、凍結保存後、レシピエントマウスに移植し、産子への発生能を評価した。最後に、胚移植により得られた産子のNPCモデル病態の表現型解析を行った。
【結果および考察】Npc1-/-雌マウスの排卵数は、eCG投与群と比較しIASe投与群で増加した。精子の運動能は、8週齢において最も高かった。新鮮精子を用いた体外受精において受精卵が得られ、GSH処理により受精率が向上した。さらに、凍結精子を用いた体外受精においても、受精卵が得られた。上記の最適化した体外受精法を用いることで、Npc1-/-雌雄マウスから初めて受精卵および産子を作製することに成功した。得られたNpc1-/-マウスは、NPCの病態を示すことも確認した。以上、本知見は、Npc1-/-マウスの繁殖課題を克服した効率的な繁殖システムとして有用であり、NPCモデルマウスを用いた新規治療法の開発に貢献すると考えられる。