研究発表を行った学会;第45回日本分子生物学会年会
2022年11月30日〜12月2日 (幕張メッセ)
タイトル; リジン脱メチル化酵素KDM7AはM2マクロファージ極性化を抑制する.
発表者;船藏 直史氏
(熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野)
要旨;
マクロファージ(MΦ)は、外来異物を貪食し、炎症性サイトカインを産生して、細菌、ウイルス、寄生虫などを排除する重要な自然免疫細胞である。MΦは、外部環境刺激によって炎症促進型のM1MΦと炎症抑制型のM2MΦに極性化することが知られている。M2MΦは、線維化、癌進展、創傷治癒などにも関与しており、M2MΦの極性化機構を解明することは、様々な炎症性病態を理解する上で大変重要である。
本研究では、MΦ極性化機構を明らかにする目的で、エピゲノム修飾因子に着目した。これまでに、マウスおよびヒト由来のMΦのエピゲノム調節因子にフォーカスした発現スクリーニングを行った。その結果、M2MΦ極性化抑制因子として、リジン脱メチル化酵素KDM7Aを同定した。さらにKDM7Aノックアウト(KO)細胞を用いた解析から、KDM7AはM2MΦ極性化を抑制することが示された。また、M2MΦ依存的なブレオマイシン誘導性肺線維症が、KDM7A KOマウスで増悪する傾向にあった。これらの結果から、KDM7AはM2MΦ極性化を抑制し、線維症の悪化を抑制することが示唆された。さらに詳細な分子メカニズムの解明のため、KDM7A KO細胞を用いたトランスクリプトーム解析を行った。その結果、KDM7Aによりヒト、マウス共通のM2MΦマーカー(Mrc1、Tgm2)が発現抑制されることを見出した。またレンチウイルスshKDM7Aの安定発現株を樹立して解析を行ったところ、これまでの結果と同様にKDM7AによるMrc1、Tgm2の発現抑制を認めた。Tgm2はタンパク質間の相互作用を増強して、細胞外マトリックスの沈着を促進する酵素として知られており、特発性肺線維症の患者で高発現する。これらの結果から、KDM7AはMrc1陽性M2MΦの極性化を抑制し、Tgm2の発現抑制を介して、線維症の悪化を抑制することが示唆された。しかしながら、KDM7Aの直接的な遺伝子発現制御機構は未だ分かっておらず、今後さらなる解析が必要である。
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